名前の両親には何度も世話になった。幼い頃からの付き合いだ。しかしここ数年、名前と関わりを絶っていた間はもちろん名前の両親とも接触しなかった。その数年のうちにこれだ。
「…安室さんも、どなたかのお参りですか?」
「あ…まあ、そうですね、友人の」
思わず、おじさんとおばさんだとか、降谷零としての発言をしてしまったが、名前は安室透として接するようだ。そうだ、俺は安室透だ。
「手を合わせても?」
「両親も喜びます」
名前に近付き、墓に手を合わせる。ろくに挨拶もしないまま、いつのまにか故人になってしまった。
「安室さん、最近ポアロにいらっしゃいませんね」
名前が後ろから声をかける。名前がいつも来店する金曜日の午後のシフトを無くしたからだ。もちろん考えがあってのこと。まさかここで会うとは思っていなかったが、俺はもう、安室透として名前に会うことはやめようと思っていた。身勝手な話だが、あのドライブの日、決めたことだった。
「どうしてですか?」
「金曜は午後から探偵の仕事が入ってまして」
「…そうなんですか」
ため息をつく。こんなにもわかりやすい嘘があるか。もっと他にごまかし方があっただろうに。誤魔化す?誤魔化せない。嘘だとわかっているだろう。
「私なりに考えたんですけど」
名前が俺の隣に立つ。視線は合わない。
「私の夢を叶えるためなのかな?」
名前の夢。幸せになりたいと言っていた。今の俺と関わりを持つということは、予期せぬ危険が伴うだろう。
あのドライブの日、名前の口振りからして、俺が当時の夢を叶え、警察という職についていることは察しているのだろう。何かしらの事情があって、降谷零という身分を隠していることも理解しているだろう。だから今も俺を安室と呼ぶ。
「私の夢を叶えるのは、安室さんじゃなくて、私自身なんですけどね」
「そうですね」
今の俺が名前を幸せにするなんてことはできないだろう。名前のいう通り、名前の夢は名前が叶えるものだ。そこへ俺がいると、邪魔になるだけだ。
一度俺から離れておいて、また近づいて、再び俺から距離を取る。身勝手な行いだろう。
一歩踏み出して、彼女から距離を取る。
「俺が居なくても、名前は大丈夫だろ」
名前が振り返り、俺の顔を見る。考えが読み取れない、不思議な表情をしていた。勝手な男だと怒るだろうか。呆れているだろうか。名前が口を開く前にと逃げるように俺はその場を去った。