降谷零扮する安室透に突然も突然の告白をされたあの晩。終電だったのに米花町で降ろされてしまったので改札を抜けてロータリーに居たタクシーを捕まえて帰った。米花町は勤め先と自宅の中間くらいの場所だったので、タクシー代もそれなりにかかって、深夜料金だし、最悪としか言いようがなかった。
零は私によく懐いていると思ってはいたけど、好きだったってマジ?困惑がすごい。
一体いつのまに人生を終えて新しい家族の元で新しい人生を始めたかわからないんだけど、気づいたら私はコナンの世界で生きていて、幼馴染の零は登場人物だし、殺人事件だらけの生活なんてやってられねーってことで東京から離れたはずなんだけどなぁ。いつのまにか良いように言いくるめられて東京勤めになってるし、関わりがなくなったはずの零とは再会してしまうし、好きだと言われてしまうし。良いことなしなんだけど。不運続き。厄年か?ちがう。
あの男、降谷零はどういうつもりで告白してきたんだ。安室透です初めましてですが好きです?は?どうしろって言うんだ。安室透=降谷零って思ってる前提なのか気付いていない前提なのか?いや、気付いたらダメでしょ、巻き込まれることが目に見えている。零がどういうつもりにしても私は安室透≠降谷零と思っている、ということにしなければ。他人の空似ということに。幼馴染にめちゃくちゃ似てる初対面の人に告白されたOLでいよう。いや肩書きすごいな?

「ハァ〜」
「苗字さん疲れてる?クマひどいよ。俺のコーヒーあげようか」
「先輩〜飲みかけならいらないです〜」
「地味に傷つく」

昼休み目前、デスクに突伏した。直属の先輩は無理すんなよと応援してくれる。優しい人だ。とりあえず仕事は仕事だ。こんな微妙なことで悩んでいてはいけない。終業後に考えよう。いや、考えなくても良いような気がしてきた、あの日は偶然も偶然に零とバッタリ会ってしまったけど、零は基本的に車ユーザーでしょ、マンガで愛車を何度も見かけた記憶がある、もう電車で会うなんてことは早々ないだろう。あとは私が米花町付近に近づかなければ良いだけだ。東京、帰ってきてしまったんだなぁ。

「お前本当に疲れてるな。よし、良い店連れてってやるから行くぞ」
「ああ先輩男前〜既婚者じゃなければよかった〜」
「妻子持ちなもんでね」

見兼ねた妻子持ちの先輩がお昼ご飯を奢ってくれるらしいのでノコノコと着いて行く。この先輩本当に優しいんだよな。先輩の運転する車に乗り込み、シートベルトをしめる。眠いなら寝てても良いと優しい言葉をいただいたのでありがたく目を瞑る。実は零の腕の感触とか、好きですと告げた声とかが忘れられなくて眠れない夜でした、なんて恥ずかしくて誰にも言えないけど。



着いたぞという声に起こされ、覚醒しきらない頭で車を降りた。前を歩く先輩を追いかける。ここはどこだろう。なんだか見たことのある風景だ。あれ、なぜだろう、嫌な予感がする。ここだと先輩が入ろうとする店を見て絶句。完全に寝ぼけ眼もぱっちりと開ききった。喫茶店ポアロ。は?なんで?

「ここのハムサンド、うまいんだよなぁ」
「あはははははは」

絶望である。

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