昨日までは、どうにか土曜の午前に終わらせようと思っていた仕事が、終わらせたくない。安室透のいるポアロに連れて行かれる。終わらせたくない。ダラダラとこなしていると、私が手を抜いているのを先輩に見抜かれて、自分の分は終わったから半分手伝うよと要らぬ世話を焼かれた。半ば強制的に仕事を奪われ、あれよあれよという間に終えられてしまった。そして先輩の思惑通り、彼の車に乗せられ、ポアロに向かった。

「どうしてそんなに私とあの人をくっつけたがるんですか…」

先輩の行動は、私からすれば余計なお世話というものである。私は零、 つまり安室透と距離を取りたいのである。日常茶飯事であるかのごとく殺人事件が起こりまくる土地に迷い込んでしまったわけだし、零は安室透として主人公の近くにいる主要人物だし、何かの要素で私までコロッと殺されてしまったらと思うと。この土地では主人公の周りで銀行強盗やバスジャックすら頻発だ。巻き込まれてコロッと死にそう。密室とかで殺されたりするかもしれない。そして彼らが私の死んだトリックなどを解き明かして犯人を突き止める。いやいやいや。いやいやいやいや。切実にやめてほしい。生きたい。怖い思いはできるだけしたくない。

「んーまあ苗字さんも本気で嫌がってる訳ではないみたいだし、対してあの店員さんは本気っぽいし、後押ししたくなっちゃうんだよな」
「"本気"という言葉の意味がよくわからなくなりました…私はいつだって本気のつもり…」


結局私はズルズルとポアロに引きずられ、にこやかな零にカウンター席まで案内され、私好みの紅茶を出される。先輩は先輩で、もう用はないとでもいうかのように帰ってしまった。えっあの人私をここに置いただけ?えっ?お昼ご飯ご馳走してくれないんだ?ええっ?がめつい後輩で悪かったな。

「すみません、上の毛利探偵のところにサンドイッチを届けてきます。すぐに戻るので」
「いえお構いなく、私もこの紅茶をいただいたら帰るので」
「今日は僕とデートの約束でしたよね?」
「それは先輩が勝手に」

とにかく、すぐに戻りますから。そう言い、サンドイッチを持って零は店外に。どうしてこうなった。あの男は私をどうしたいんだ。どういう心境で私を好きだとアピールしているんだ。教えて、零。


.


本当にこの男は、どういう心境なんだ。私はなぜここにいるんだ。なぜ毛利一家と江戸川コナンと対面しているんだ。私の隣に座る"安室透"は素知らぬ顔で自然に私を紹介する。

「こちら僕の連れの苗字名前さんです」
「はじめまして、安室さんの連れではないです、他人です」
「えっもしかして安室さんの彼女さんですか?!」
「絶対に違います」

ついに知り合ってしまった主人公たち。私の目の前には遥か遠い昔に見覚えのある、毛利蘭と毛利小五郎、そしてとある界隈では死神と恐れられる江戸川コナンが座っている。信じられない。全ては安室透、いや降谷零、この男のせいだ。

サンドイッチを届けているにしては随分時間がかかるなあと思ったり、いや別に私には関係ないしさっさと紅茶飲んで帰らせてもらおうと思ったりカバンの中のお財布を探していたりする間に、店のエプロンを外した安室透が帰って来た。

「急遽なんですけど、毛利先生への依頼にお供することになりまして」
「あっはいじゃあお疲れ様ですお先に失礼します」
「いえ、あなたもご一緒に。先生たちに許可はいただいてますから。そのあと僕の車でどこかドライブでも行きましょう」
「なんで」

いつのまにか私の鞄を手に持っていて、彼を追わざるを得ない状況になり、渋々ついていった。もしかして私って流されやすい?そしてその結果がこれだ。毛利一家とコナンくん。この依頼、絶対人が死ぬなぁと思ってしまうのも仕方ないだろう。ところが時間になっても一向に依頼人は現れない。私はオムライスを食べながら考える。このまま依頼人が現れなかったら誰も死なないのか?いや、依頼人が現れないと死ぬのは私か?え?待って?死ぬの?

「どうかしましたか?」

零が私の顔を覗き込む。昔から変わらず綺麗な顔だし、結局今も変わらず私にべったりだし。

「いえ、どうして安室さんは私の名前を知ってるのかなあと思って」

え?とその場の雰囲気が固まる。零もえっ今更?みたいな表情で口を開こうとする。そのときタイミングよく毛利先生の携帯が鳴る。依頼人かと思って注目がそっちに移ったため、微妙な空気は流された。結局迷惑メールで、依頼人からの連絡は未だ来ず、再び事務所に戻ることになった。お店を出るときに、零がこっそり私に囁いた。

「言ったろ、ずっと昔から好きだって」
「ぎゃっ」

突然のことに思わず変な声が出た。零もなんだこいつっていう目で私を見ている。突然安室透の皮を捨てた?どうした?完全に零の口調じゃん。え?どうした?私が呆然としている間に一行は先に進んでいて、慌てて追いかける。
昔から好きだったって言われてもそれは安室透が私の名前を知ってる理由にはならないんだけど。どういうこと?昔から好きだったから思わず言っちゃったし思わず(?)安室透として筋が通らない(?)ことをしてしまってるけどどうにかごまかしてくれよな、だって俺はお前が好きだし、っていうこと?え?なに?なにこれ?

ALICE+