毛利探偵事務所のお手洗いに誰かが隠れているかもしれないということに気が付いた。いや、気が付いたというより、なんとやくぼんやりと思い出した。毛利探偵事務所のお手洗いで人が死んでた事件があった気がする。本当にぼんやりだからあまり内容は思い出せないけど、こうもタイミングよく事件が起こるだなんて、さすがだ。あのとき意地でも帰ってればよかった。そう思っても遅い。初めて聞く発砲音、駆け出すコナンくん。私は呆然と立ち竦むだけ。
怖すぎる。たった今、あの音がした瞬間、一人の命が終わったわけだ。寒気がする。

「名前は見ないほうがいい」

何も考えられなくなって、ただお手洗いの方を向いて立っていた私に、零はそう言った。私が随分怯えていることに気付いたようで、心配そうな表情を浮かべている。今すぐにでも帰りたい。
お手洗いから、涙を流した女性が救出された。零と毛利先生、コナンくんはもちろん、蘭さんすら落ち着いた様子で、驚いてしまった。それもそうか、遭遇している事件の数が違う。私とは生きる世界が違うと思う。しんどい。こういう事件が怖いから零と離れたんじゃなかったっけ、私。

しばらくすると警察が来て、樫塚圭と名乗る女性も事情聴取を受け、一応は自殺としてその時間は終わった。私も軽く話しを聞かれたが、特に話せることは無かった。口が裂けても、あの女性が犯人でしただなんて、言えるわけがない。

「よかったら、僕の車でお送りしましょうか?名前さんを送っていきますから、ついでに」

零が樫塚さんに言う。樫塚さんはお言葉に甘えて、と零の車に乗るようだ。私のことも送ってくれるつもりみたいだけど、樫塚さんと同じ空間にいるのは怖い。

「私は電車で帰るので大丈夫です、樫塚さんを優先してあげてください」
「でも名前さん、顔色が優れませんが」
「ちょっとまだ驚いているだけです。帰れます」

毛利先生と蘭さん、コナンくんに挨拶をして、帰る支度をする。零は切なそうな表情を浮かべ、私に声をかける。

「名前さん、今日はすみませんでした」

本当だよ。私の土曜日、午前は仕事、午後は殺人事件。こんな土曜日かつて無かった。これも零が私を誘ったからだ。…いや、どんな理由があろうとも、結局ついてきた私が悪い。わかってる。離れようって思ってたはずなのに、いつのまにか先輩に連れていかれるからという理由づけをして、ポアロに通ってた私が悪いんだ。いつかこうなるだろうと思っていたのに、いざ殺人が起きると、やっぱり怖い。怖いけど、零のせいじゃない。

「"安室さん"が謝ることじゃないですよ」

私が理由をつけてポアロに通ってしまう理由も、今この場所で零を責められない理由も同じだ。私を抱きしめ、好きだと言ったこの男が、降谷零が、いかに危険な存在だとわかっていても。この人のそばにいることで今日のようなことが起こりうるとわかっていても。そういう「キャラクター」だと知っていても、私が彼と過ごした10年以上の時間で、情が湧いてしまったんだろうな。零から連絡が来なくなって、さよならできたと思ってたけど、もう一度こうやって出会って、よくわかった。私は結局、このかわいい幼馴染からは逃げられない。

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