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(涙と後悔が僕らを繋ぐなら)



「辛いことを思い出させて、すまなかった」

堪えていたはずなのに我慢できず、結局泣いてしまった。
いつの間にか握っていた手が熱い。

それでも、その手を振り払わないのは、触れても良いと、近くにいてもいいと、思ってくれているということなのだろうか。

「…だが、話してくれてありがとう。
あえて言うが、俺は…千春が思っていてくれたほど、特別でも、輝く人間でもない。
自分にとって大切な女1人、守れなかった情けない奴だよ」

そうだ。
俺はいつも後悔を重ねて、戸惑い迷い、結局間違える。
すぐに自分ことで一杯一杯になってしまう。

情けないのも、格好悪いのも、御免だと思っていた。
勿論今だってできることなら、余裕の顔で笑って彼女を抱きしめて、どこかへ攫っていけるような、俺がそんな男だったならと思わずにはいられないけれど。

「それでも、情けなくても、格好悪くても、俺はただ千春、お前の味方でいるよ。
俺にできることなら何だって、力になろう。
それだけは、どうか、心に留めていおいてくれ」

本当は前から知っていたことだ。
自分が特別ではないことくらい、ずっと前に気がついていた。
サボればすぐにボロが出るし、愚痴を言いたくもなれば嫉妬もする。
昔の恋を引き摺ってズルズルと諦め悪くここまできた、ただの10代のガキでしかない。

だけど多分きっと、それを誰よりも俺は自覚している。
彼女のことを救ってやれるとか、守ってやるとか、そんな大層なことなど言えるはずがない。

それに、結局のところ人は自分の足で立って、歩んでいかなくてはならないのだ。
人生には無数の選択肢はあれど、自分の意思と決断で選択を掴み取っていけるのは、自立を自覚した者だけだ。
選ばされるのではなく、自ら選び取っていく権利を皆が平等に有しているとはいえ、その権利を自分の物にできる者は意外に少ない。

それでも、人は1人では生きていけないから。
そして人生は続いていくから。
だから、俺に言えることは、ただ。

「だから、もう独りで抱え込むな。
これからのこと、千春がどうしていきたいのか、一緒に考えよう」


握っていた彼女の、もう随分と痩せてしまった手が震えた。


「…うん…。ありがと」


泣き腫らした目は赤くなって、声は情けなく震えていた。
それでも彼女は確かに、力強く、一つ頷いた。

今の俺にはまだ、その涙を拭って抱きしめるような勇気はないけれど。
そしてきっと彼女にも、そうされる心の準備も、そうして欲しいという気持ちも、ないと思うけれど。




fin