愛を紡いだ少年少女


※<一章19話 答え合わせをしようか>の後、クリパの一部始終。


五条はテレビゲームで対戦したがる割に、弱い。ここだけ聞くと語弊があるが、五条が一般的に弱いという意味ではなく、夏油と家入がやたら強いのである。

「あ"あ"ぁ"ぁ"!」
「いっちょ上がり〜」

たった今場外にされたキャラクターの叫びを代弁するかのような断末魔であった。カコカコとプロゲーマーの如きコントローラー捌きを見せる家入の横で、スマブラ初心者につき早々に脱落した紅花がケタケタと声を上げて笑った。
これで夏油と家入の一騎討ち、今のところ家入が優勢である。

「あー、くっそ、硝子強すぎ」

夜通し五条に付き合って、夏油まで隈を作って来ることはよくある話だが、家入とは思わぬ伏兵だ。液晶の中で繰り広げられる熾烈な争いを観戦しながら紅花はピザをかじる。五条がその横にどかりと座った。

「もーらい」
「あ!」

ばくり、と紅花の手にあるマルゲリータの殆どが五条の口の中に消えた。目の前に手付かずのものが広げてあるにも関わらず、だ。
五条と喧嘩をしたらしい紅花に家入が気付きを与えたのは午前中の話だ。夏油と家入が五条の部屋を訪ねるより前に紅花が部屋にいたということは話をし、長い攻防にもやっとカタがついたのだろう。夏油曰く、朝は底辺だった五条の機嫌が好転しているのが何よりの証拠だ。

「てかアンタら結局どうなったの?」

夏油対家入──結果は家入の勝利である。
コントローラーを放り投げて、家入が缶チューハイ片手に訊ねた。まあ、返事は聞かなくても分かっているのだが。

「分かってて言わせようとしてんだろ」
「そうだけど?」
「長い間見守ってきた身としては、直接聞きたいね」

夏油まで乗ってきた。まあ元より自慢しようと思っていたのだ、言うも言わされるも変わらない。付き合ってる、と五条が言葉にしようとした時、今まで黙っていた声が緊張を滲ませて割り込んだ。

「付き、合って…ます」

改めて口に出すと恥ずかしいのだろう。尻すぼみになっていく声に、五条の胸は少女漫画よろしく、きゅうと音を立てた気がした。例え二人に義理立てした形であっても、他でもない紅花が自分から、五条と付き合っていると二人に公言してみせたのだから。

「お前、マジでさぁ…そういうとこだよ」
「ど、どういうとこ…?」

「夏油ダメじゃん、五条に酒飲ませたら」
「硝子、残念ながら悟は素面だよ」

ぎゅ、と紅花をすっぽり抱き込んで彼女の後頭部に顔を埋める五条。結局のところ、彼も16歳の少年、好きな女の子には形無しなのである。

[title by溺れる覚悟]

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