裡側 参




一月も経てば俺が彼女に惹かれ始めているのだろう、というのは充分に理解が出来きつまらぬ独占欲と戦いながらも理性は働き続けた。俺は教師だ、学校では風紀を守らねばならない。

そう思い努力は続けられていたが、元気の無い彼女を目の前にすると止められはしなかった。

「元気の無い時は飯だな!丁度今日は顧問している部活動が休みなんだ、共に飯を食べよう!」

元気の無かった苗字さんの顔色がたちまち変わり俺の行動一つでこんなにも表情を変えるなど何と愛いのであろうかとぎゅっと瞳を閉じた。








片付けを終わらせ待ち合わせをすると彼女は小走りでやってきた、助手席に座らせようと扉を開けると照れながら乗る様を眺める。
自身も運転席に乗り眼鏡をかけると呆けた顔と目があった、心中では口が開いているぞと笑いそうになってしまうのを堪えて微笑むと慌てたように目を逸らされてしまった。欲を言えばもう少し眺めていたかったが時間も惜しいので車を発進させる。

生家ではよく家業の門下生達に飯を振る舞うが故に外で飯を食らうより健康的で調和の良い食事が取れる、元気が無いなら善く食べ善く寝るのが一番だ。
千寿郎は何故か昔から母上よりも炊事が得意で今日は比較的帰りの早いので飯番の日だろう。生家に行くと言うと彼女は少しばかり驚いていたが弟の作った夕餉を食べれば納得するに違いない。









・・・







「ただいま帰りました!母上!こちらは職場の同僚の苗字名前さんです、今日は夕餉を食べさせようと思い連れ帰えさせていただきました!」
「あの!いきなり来てしまい申し訳ありません!苗字名前です、お邪魔致します!」

母上が面を食らう顔をする、珍奇なこともあるものだ。ただ、その顔にはけんは含まれていない。
真偽はわからぬがきっと歓迎しているのだろう。

母上と苗字さんが話しているのを横目に見ながら履物を整え心もそろえる。夕餉の前に彼女との時間は充分にありそうだ、知らないことを知るとしよう。


ここは今住んでいる家では無いが幼き頃からの俺の部屋だ、なにも隠す物などはないが一瞬らしくもなく部屋に入れるのを戸惑ってしまった。
きっとその事は彼女は知る吉もない。





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痺莫