裡側 陸




夢に見たことがある、鬼狩りとして心を燃やし
弱き人を助け、愛する者と共に歩んだ青年の人生を






・・・







「おれが、まもろう」

杏寿郎が父から指導を受けるようになる頃に
幼き頃から共に育った名前も杏寿郎と稽古に参加したいと申し出るようになった。
名前は煉獄家に仕えている女性の子供なので望めば鬼狩りの道も歩めただろう。

「かたなをもつひつようはない!きけんなめにあわせたくない!」

物心ついた頃から鬼狩りを見てきた。女人も居ることも知っている、女人にしか出来ない戦い方や知能があることもその頃には杏寿郎でさえ知っていたが一つの傷も付けたくない守りたい対象であるこの少女を戦わせるという選択は杏寿郎には一切生まれなかった。

名前が寂しくないように心から笑っていられる毎日であるように、が杏寿郎の日課になったのはこの頃からで寂しくないようにと床を共にする日もあった。杏寿郎が心に灯してる気持ちを気づくのはずっと先の話である。






















母上が亡くなった

俺も煉獄家の長男として強くならねばならない、泣くな、悲しみに呑まれるな
母上と約束したのだ、弱き人を助けると、柱になると

最初のころは名前との時間は急激に減ったが寂しく感じる暇もなかった。幼子のような甘えも断ちお互いに己のやらねばならぬ事を全うしていたし、俺も柱になるための鍛錬に忙しかったからだ。
鬼殺隊に入隊し着実に階級を登っていくのと併せるように名前を側に置きたいという気持ちは深くなる一方になり彼女の十五の誕辰に部屋を与えて俺はなるべくその部屋で過ごした。
家を空けた後は必ず土産物を持ち帰り多くの事を彼女と語り合った。
母との約束もあるが俺が彼女に炎柱の背中を見せたいと願うようになり、いずれ二人の子に煉獄の継承をと思いよぎるときにはこれが恋慕だということに気がついた。
だが俺は鬼狩りでいつ命が終わるかわからない、柱になるまでは想いは伝えず仕舞っておこう。この決意がきっと大きな力になると信じていた。



早めに任務が終わり宿泊する手立ての藤の家に着くと一人の布団に入る気にならず名前の元へ向かう。もう夜更けだし寝ているだろう、そっと布団に入り翌朝目覚めたら俺が居ることを彼女は喜んでくれるだろうか。そんな想いを胸に家に早足で帰ると彼女は格子戸を開け月を眺めていた。その美しい姿に目を奪われ声をかける事に戸惑ってしまう、鬼殺としての階級を上げ大人になったつもりでいたがまた彼女も成長しているという事実に焦りのようなものが生まれる。
眺めていたい気持ちもあったが薄着の名前を見て風邪をひいてしまうと思いそっと声をかけると酷く嬉しそうな顔でこちらを見てくるので先程の焦りは消え去り胸が暖かくゆるやかな気持ちになるのがわかった。

彼女を抱きしめながら今宵の任務について話をしていると着合わせに手が当たってしまう。「んっ・・・」と声を漏らす名前の声に下半身が反応するのがわかった。
謝る彼女にこちらこそと声を上げるとある一点に目が釘付けになった、乳房が見えている・・・。突然の出来事に固まると名前も俺の反応で気づいたのか急いで合わせを直す。気を遣わせてしまっては可哀想だろう、彼女の方が俺より恥ずかしい思いをしているのは明白だ。

「乳房を見てしまった!」
「い、いえ、こちらこそお見苦しい姿を見せてしまい、その・・!」
「そんな無防備でいると、すぐ男に組み敷かれてしまうぞ」

恥ずかしがる姿に何故だかもう少し困らせてやりたい気持ちになり
彼女の滑らかな太とももを撫で首筋に顔を埋めるとある考えが過る。
名前は俺が居ない日はこのような薄着で過ごしているのか。これからは俺も継子や弟子を取り隊士の育成もすることになる、そうすればこの邸に寝泊まりする者も増えるだろう。
その者達がよからぬ気を起こさぬか急激な不安に襲われた。俺が居ない日は特に注意して過ごしてもらう為にも今この状況に説明するのが一番の薬になるだろう。
名前にそのことを悟るとあまりにも頓珍漢な解答をされた

「名前があまりにも愛らしいから心配している、こんなあられもない姿を他の者にみせないで欲しいという意味だ!」

顔を真っ赤にして返事をする名前をみて、理解してもらえただろうと満足し疲れていたのもあってその日はすぐに眠りに落ちた。
翌朝に隈の出来た彼女の顔をみて、意識してもらえている事に喜んでいいのか彼女を寝不足にさせてしまった事を悔いたらいいのか複雑な気持ちになり、困らせるのは柱になってからにしようと胸に刻んだ。


信じていた、柱になることも、名前と幸せになる未来も何もかもが順調のように思えた。
勝って兜の緒を締めよとはよく言うもので、色恋でもそうだということを俺はまだ気付いてい居なかった。







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痺莫