裡側 漆

※外伝ネタバレ含みます。















「お疲れ様です、兄上 蜜璃さん。菓子を作って参りました。どうですか一息」
「ありがとう千寿郎く〜〜ん!」
「こらこら、まだ終わってないぞ!」

千寿郎の後ろから顔を出す名前の手元には例の薩摩芋菓子が有り、それは無碍には出来ないなと思い休憩に入った。
休憩の折に甘露寺に鬼殺隊入隊のお祝いを渡し共に頑張ろうと伝えるととても喜んでくれてるようで、一方の名前も自分のことのようにその目を輝かせていて彼女のその心意気にまた一つ好きなところが増えてしまい困りもしないのに困ったなと己に言い聞かせた。

その愛おしい姿に少しだけ意地悪をしたくなり薩摩芋菓子を差し出すと恥ずかしがりながらもそれを口にし俺だけを見ながら美味しいと言う。
俺には俺の責務がある、この幸せなときを永遠には出来ないとわかりつつも命続く限りは名前を一人占めしたいと思っていた。そう出来ると信じていたのだ



「カァァ!伝令伝令ィ!炎柱ァ!柱合会議に至急向カエェ!!」









・・・






約束したのだ、
弱き人を助けると、柱になると


柱になり、愛しき者に想いを伝え共に歩むと



父上の代わりに向かった柱合会議にて十二鬼月の討伐をお館様に命じられ生家での挨拶もそこそこに門出を立つ。その時の名前は浮かない顔をしていたがきっと心配しているのだろうと理解し背中を向けてしまった。

蓋を開けてみれば下弦ノ弐で重症を負ったがその討伐に成功した。
昇格条件を満たしたことだろう、身体が治れば”柱”になる。忙しい身の上にはなるが、折を見て名前に想いを伝えることとしよう。
早く顔が見たくて松葉杖でまだ自由もきかないが家に戻る、名前と千寿郎は泣きながら出迎えてくれ祝いの席を設けてくれた、その夜もいつものように名前の部屋に共に向かうと布団が二枚敷かれていた。俺の身体を気遣っての配慮だろう、彼女の器量の良さに伴侶にと思う俺の気持ちは高まる一方のようだ。

「杏寿郎さんにお話しておきたい事があります」

俺を布団に下ろすと彼女は優しく布団をかけてくれ真剣な面持ちでこちらへ向き合う

「なんだ!」
「お見合いをしました・・多分その方と婚姻します。
なのでもう床を共にすることが出来ません」
「なっ・・・!」

酷く動揺した、この人生彼女と共に歩むであろうと信じて疑わなかったからだ。
彼女の肩を掴み抱きしめて問いただす。が、名前の言葉が全く耳に入ってこない、考えろ、よく考えるんだ。誰だと聞いたら諦められるわけでは無いだろう、想いを伝えるのは今以外ありえない。名前は誰にも渡したくなどない。

「うむ、どこの誰というのが問題なわけじゃないな。名前はその男を好いているのか?」

好いているわけではない、見合いだと答える名前に夫婦になろうと申し出ると無理だと言われたがここで引くわけにはいかなかった。鬼殺隊としての柱としての責務が第一だが名前を諦めることも出来そうにない。

「俺が君と共に居ることでもっと強くなれる!俺と夫婦になろう名前」

そう申し出ると彼女は今にも泣きそうな顔で「ず、ずっとお慕いしておりました・・・私を杏寿郎さんの妻にして下さい」とか細い声で答えてくれた。
名前の想いには薄々と気付いてはいたが、俺と婚姻を結ぶと決意してくれて心底安堵し微笑みかけた。
心が変わられても困ると思い、次の日から行動に移すこととなる。






母上
俺は今とても幸せです。










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痺莫