星原が来ない。待てど暮らせど現れる様子がない。もしかしなくても、まだ昨日のことを引きずっているのか。わざわざ俺が出向いてあげたっていうのに、何だよ。返そうと思って机の中に入れっぱなしだった星原の教科書を、もやもやした気持ちのまま机と一緒に叩いて、立ち上がった。
ずんずんと大股で歩いて、星原の教室へ向かう。勢いよく扉を開ければ、そこには驚いた顔をした星原の顔がーー‥‥‥
「あ、れ」
見えなかった。見えないだけじゃない、星原の姿が、なかった。きょろきょろと教室内を見渡してみるけれど、星原の姿は見当たらない。行き場のない感情に気分を悪くさせながら踵を返すと、運悪く教室に帰ってきたばかりの誰かとぶつかった。
「あら成宮くん!ごめんなさいね」
「こっちこそごめ‥‥って先生、ちょうどいいところに!」
「ちょうどいい?」
「今日星原は‥‥‥っ、星原、さんは、どうしたの?」
「星原さん?」
思ってもみなかった名前が出たからか、先生はきょとんとした。それから、星原さんの友達って成宮くんだったのね、とよくわからないことを言ったかと思うと、困ったように彼女の欠席理由と居場所を教えてくれた。
「担任の先生に早退の連絡しておこうか?」
「‥それはいいかな、どうせすぐ帰ってくるし」
「あら、そうなの?何か用があったんじゃ‥」
「‥‥別に。昨日借りた教科書、返しに行くだけだから」
▽
「星原!」
砂浜で、波が服の裾を濡らすのも気にせず座っている星原に、俺は駆け足で近付いた。
海の遠くをじいっと見つめて、消えそうで、腹が立ったからなのに。
「成宮、くん‥?どうして‥‥」
「星原‥?泣いてんの?」
「あ、これは‥‥」
それなのに、泣いている星原を見て、そんな感情はすぐに泡のように消えて無くなってしまった。靴が濡れるのもおかまいなしに、俺はすぐに星原の横に駆け寄って、肩を掴んだ。‥‥何、無理して笑ってんだよ。星原のくせに。生意気。
「‥‥今日、親御さんの命日なんでしょ。先生から聞いた」
そう言うと星原は慌てて目をごしごしとこすりはじめて、またいつもみたいな笑顔を作ろうとする。
「あ、そ、そうなんだ‥ご、ごめんね‥!余計な気遣わせちゃって‥‥」
「‥あーもう!!そうじゃなくて、そんな日まで無理して笑わなくていいって言ってんの!」
「ご、ごめ」
「謝んない!!!」
「ご‥‥あ、えっと、」
ようやく自然にくすくすと笑い出した星原に、俺も一緒になって笑った。
なんだよ、やればできるじゃん。バーカ。