あんなことがあったのに、星原は以前と全く変わらない。むしろ、何か吹っ切れたような、憑き物が落ちたような、そんな気さえするくらい、すっきりとした表情をしていた。悔しいことに、そんな顔をする星原すら、俺はドキドキするようになってしまった。


「はあ‥‥」


だけど、改めて好きだなんて自覚しても、どう告げていいかわからない。今更、何と言って好きだなんて言えばいいのか。初恋の人が星原だったから?そんなの、最後の後押しに過ぎないのに。本当はもう、とっくに‥


「成宮くん」
「うわあっ?!」


脳内にいた人物の登場に思わず仰け反ると、星原は少しきょとんとしてから、驚かせてすみませんと眉を下げて笑った。

前なら謝っていただろう星原の、屈託のない笑顔を見ると、自然と頬が緩む。前より楽しそうに、子供みたいに無邪気に笑うようになった。前と違って綺麗でもなんでもない、あどけない表情が、少し、好きだ。


「考え事でもしてました?忙しいです?」
「あーー‥いや、そういうわけじゃないんだけどさ‥‥」


前みたいに、まっすぐに星原の顔が見づらい。気持ちに自覚して、いいことなんもないな。視線をそらしながらそんなことを思っていると、ふと、気になったことがそのまま口から滑り落ちた。


「星原ってさ、俺のこと好きなの」
「え?」


バカじゃないのかと問いただしたくなる頭の悪い発言に、星原はまたきょとんと目を丸くした。まばたきを繰り返してから、くすりと微笑む。


「はい。大好きです」
「っ、‥!」


そんな風に返ってくるとは思っていなかった俺は、再び星原から視線を逸らした。そりゃどーも、なんて愛想のない返事をする。あー違うのに。俺が本当に言いたい言葉は、


「(‥‥俺も。なんて、言えるわけないじゃん)」


ため息まじりに窓の外に視線をやると、ボタボタと雨が窓にまとわりついていて、梅雨終わったんじゃないのかよ、と悪態をついた。

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