「成宮くん、こんにちは‥‥良かったら結婚どうでしょうか‥‥‥」
「えっなんでそんなテンション低いの」


 どんよりとした空気を纏った星原さんが教室に入ってくる。さすがに驚いて心配の言葉を投げかけてみるけれど、「なんでもないですよ」と、どうも空元気だ。
テストで悪い点でも取ったとか?なんてくだらない理由が浮かんで思わず頭から振り払ったけれど、ほんの数日の付き合いで彼女ならそれもありうるなと想像上のできごとで笑ってしまった。


「そういえば、面白いクッキーはどうなったの?」


話題変えのつもりで出したその言葉に、星原さんは分かりやすいほどにびくびくっと肩を揺らし、目を逸らした。さっきよりも数段と顔も青い。あ、クッキー失敗したのか。


「わ、わたし‥お菓子作りって初めてで‥‥まさかクッキーがこんなに膨らむとは‥‥」
「‥膨らむ?てことは一応クッキーにはなったの?」
「ま、まあ‥‥?」
「ちょっと見せてよ」


よく見たら星原さんは捕まりでもしたかのように手を後ろにやっている。随分分かりやすいな、と腕を取ると、簡単にクッキーの入った袋が出てきた。確かに、クッキーと呼ぶには幾分かサイズが余分すぎる。


「成宮くんが野球部だと小耳に挟みまして、野球部の皆さんの顔を作ったんですけど‥‥もう腫れ上がってて誰かわかんないし‥うう‥」
「え、これ俺たちってこと?!」
「はい‥友だちに野球部のファンの子がいるので、写真を見て‥‥」


 もしその子にこのクッキー見せたらキレたんじゃない、ってくらい似てなかった。偶然か必然か一番前に入ってるこのクッキー、多分俺‥‥だよ、ね?酷い。あまりにも酷い。俺この数億倍かっこいい自信ある。こっちはカルロ‥‥?これは樹かな。そんでこっちは‥‥


「ねえ‥これ雅さん‥‥?」
「え‥あの‥‥」
「雅さんだよね‥?」
「そ、そう、です‥‥その、ご、ごめんなさ」


心底申し訳そうな顔をした星原さんが謝ろうとした瞬間、ものすごい勢いで爆笑してしまった。目の前でぽかんとした顔してる。プププ、間抜け面。でもその間抜け面で笑ってあげる暇もないくらい、笑いが止まらなかった。


「もうこれゴリラじゃん!星原さん雅さんじゃなくてゴリラ見て作ったんじゃない?これ超顔でかいし!やばいし!」
「い、いやあ‥‥?」
「まあ雅さん充分ゴリラだけど!ぷっ、くく‥‥!」


 あまりに涙を堪えて笑う俺を見て自信を持ち出したのか、星原さんがこんなわたしと結婚どうでしょう?!と勢い良く立ち上がるものだから、笑いながらお断りした。星原さんも笑ってた。今日はちょっと、楽しいかも。

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