「こんにちは!成宮くんの苗字をわたしにください!」
「無駄に言い方変えてきてる!」


 星原は昨日のことがあってか無駄にテンション高く教室に入ってくる。昨日はほんと面白かった。そのおかげか知らないけど練習中も調子がよかったし、雅さんにも球走ってるって褒められたし。まあ、俺が調子いいのはいつものことなんだけど。

 あの後、食べる前に撮った写真を当人達に見せたらドン引きされた。その気持ち、分かるなぁ。でも、あのクッキーは雅さんがメインだから。雅さんという名のゴリラがメインだから。うぷぷ。けど、練習中雅さんの顔見るたび笑っちゃって怒られたのは完全に星原のせいだから、もうさん付けしてなんて呼んでやんねー。


「あっでももちろん成宮くんが婿入りでも構わないですよ?」
「ええ〜、俺が星原の苗字貰うの?」
「星原鳴‥‥なかなか良くないですか?!どうでしょう!婿入り!」
「俺は成宮を捨てる気はないでーす」


おどけたようにそう言えば星原はじゃあやっぱり普通に結婚しましょう、なんて想像通りの返しをしてくる。それがなんだか、心地よかったり。


「星原さー、俺のこと運命だって言ってたけど、初恋の時も運命感じてたわけ?」
「初恋、ですか‥?」
「そー、初恋。」


そりゃあ初めて抱く気持ちだから、特別に思えただけかもしれないし、人に話せば青臭いと笑われるだけかもしれない。
でもきっと、星原は笑わず聞いてくれるだろう、なんて過信しながら、つまらない話を続けた。


「俺、初恋くらいだなー、叶ったら運命だと思えるの」


きっと、この先ずっと何人や彼女を作っても、あの人を越える存在は現れないだろう。思い出なんてものは、遠くなっていくほどに美化されて尾ひれをつけて話が盛られていくものだ。


「有名になってもっと俺の名前が広く知れたら、向こうから会いに来てくれたらいいのに」


とかさ!とクサい思い出話を茶化すように澄まし顔を崩して笑ってみせた、けど。それもすぐに崩れてなくなった。‥‥なんで、そんな泣きそうな顔してるんだよ。


「ごめんなさい」
「‥え」


‥‥正直、突然女の子にそんな顔されて泣きたいのはこっちだ。


「ごめんね、本当に‥そんな大切な人がいたのに、わたし‥‥」
「ちょ、ちょっと!急にそんな謝らないでよ!星原さんが変わってんのは今に始まったことじゃないし‥‥!」
「‥‥え。か、変わ‥‥?」
「あーもうまたさん付けしちゃった!!星原が急に遠慮した態度とるからだよ?!星原のくせに!」


目を吊り上げて子供っぽいくらいに吠えながらそう言えば、星原さんは子供を見守る母親みたいな顔をして優しそうに笑った。いつも子供みたいな顔してるくせに、生意気。ほんと、星原のくせに。


「‥‥じゃあ、気が変わる可能性ももしかしたらあるかもしれないし、その時は言ってください、ということで!」
「ぷっ、はいはい」


 笑いながらそう交わしたから、きっと星原さんはまた明日からも変わらず、俺にいつものようにプロポーズして来るのだろうと思っていた。会って数日しか経っていないのに星原さんのことなんて全部わかったような気でいて、上辺しか見ていなかったのかもしれない。


その日を境に星原さんは本当に、俺に結婚しようと言わなくなった。

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