せつなさのただそのための町並みが海に沈みて我を擽る
雲海が呑んでくれると信じてて見つめ続ける首折れるまで
―二〇二〇七月六日
綴紐解きて開き紙魚ころす話閉ざせず身代わりとして
―二〇二〇年七月七日
さらされるきみの肉体ばらばらにとくに頚椎のかたちがいいね
あたたかな炎と思い手をのばす燃やすが文字かいのちかなど些事
母のうた幾度も諳んじ擬える一節だけを思い出しては
磨かれぬ鏡に立ちてそれだけがただそれだけが愛たる証左
―二〇二〇年七月八日
219首〜225首
携帯の古びた機種のカメラより画素数高いメモ帳の文字
―二〇二〇年七月四日
一方ならぬ想いであれとまじないし十指の空虚紙垂ただ白し
我が臓腑誰ぞ居るかと呼ばへども闇に谺す「誰も居ません」
人肌が与えるはずの安寧をどこか落として墓穴暴く
砂糖水目にして惹かれ暖簾のけ「愛、ありますか」「愛、ありますよ」
鮮やかに手向けらるる花々のしかし乾ひて洋墨匂ふ
孤独をば居場所と見做す矛盾すらもが宝石ですか?
ほんとうはむくろひえびえそこにあるそこにあるだけ石のごとくに
まぼろしの何も響かぬ世界です価値と出血はらわた探せ
―二〇二〇年七月五日
210首〜218首
ときにわたしは わたし自身のむなしさをわすれ
はだしで浜辺の砂を踏みしめます
しかし 踏みしめたために きっさきのするどいのが
土踏まずの奥の奥まで はいりこんでしまいます
その瞬間 はっと我にかえり
わたしはわたしのむなしさの
影の腕のなかにおさまっています
むなしさをわすれ 足をおろす砂の感触
烈日は まぼろしのようにさしこみ
わすれたぶんに利子をつけ むなしさがやってきます
そして わすれているときですら
そのことをうすく予感しているのです
砂をふみかため やわらかさに息をこぼすとき
するどさにたえられるよう 身をぎゅっとかためて
なので それは文字どおり 砂上の楼閣なのでした
―二〇二〇年七月三日
詩
どうかもう許してください今日までを生きてしまった私のことを
ごめんねと自分自身に言う覚悟ここから先はひとりで持つよ
この先で待ち合わせると指切った果たされないと互いに知るも
壁紙が剥がれゆくなか駆け下りる翅生えないのは僕だけらしい
繰り返す繰り返すから背中触れ穴にゼンマイないか確かめ
レンジで解凍済みの言葉たち取り出すときのあの失望感
腐敗には腐敗の鮮度いのちにはいのちの期限消費し生きて
ひとしきり気管裏から撫で回す噎せ込みながら積もった歴史
夜などは消費期限も切れていて気管支炎が短調きざむ
―二〇二〇年七月三日
201首〜209首