いのちの
そのぬくみに
触れることの
おそろしさ
おぞましさ
いとおしさ
触れることで生まれる
慈しみもあれば
苦しみがあり
ただ
己の血の色が
赤色であることに
落胆をし続けている
―夜半の偏頭痛 二〇二〇年六月二十八日
詩
青々と雨季に沈むシダの葉を看取りてハサミ百合の首落とす
きみ隠す臓腑のかたちありありとこの手に捉え鼓動をなぞる
西日ごしただくたびれた背姿網膜焼けども目蓋残らぬ
はらわたを抱え肉塊ひきずるを称して人と括るもむなし
―二〇二〇年六月二十六日
夜半すら斯くも静けき有様で夏の死臭にいのちが尖る
悉くいのち静まり事醒めん我を忘れて我をわすれて
偏頭痛脳内巡る血液の一滴たりとて貴様にやらぬ
耳の奥揺らす貝殻さらさらと砂音たてる蝸牛の群れ
―二〇二〇年六月二十八日
169首〜176首
仮縫いに閉じたおはなし走馬灯照らされ仕上がる虚飾の装丁
心臓をつかむ指先いつの間にこれほど細りやせ衰えて
梅雨が来る沁みぬ風情に花散るも我訪うは土瀝青の香
掻き抱く研ぎ澄まされたパラソルが区切る狂乱季節よまわれ
ヒトやサル、蝶々や蛾に花ですら生に閉ざされ腐肉に産まるる
恥じらいの花瓣の如きまぼろしが腐りてほろび美が滴らん
泥濘の中に瞬く星にすら価値がないなど信じられるか?
見上げたる夜の海面逆しまに月は地に落ち我は四散す
―二〇二〇年六月二十五日
161首〜168首
手向けだと花を持ち寄り降らせようくちびる目掛け瘡蓋真似て
傷跡が残って見える赤々とくちびる震え呪詛を溢さば
血潮なぞ虚妄に過ぎぬしかばねに愛撫の如く押し込むメス
きみに触れ凍傷負ったそのはずがくちびるすらもひえびえ凪ぐ
天球儀回して回すカラカラとくちびるよりも雄弁みたいだ
―二〇二〇年六月二十二日
156首〜160首