諧謔
我の在りし日
腐乱せむ

短歌と俳句と詩
無垢という期待を乗せた目蓋をも裏返そうか夏を探しに

鮮やかな手付きで握る懐かしきナイフのあつさ愛に非ずも

目に見えぬ微細なものは透かし見て傷が光って漸く気づく

世界中きみに刃を向けたとて僕は味方と言えもしないで

零しても誰も拾わぬこころだときみが捨てさりおれが拾って

まなざしはどこへ失くした二度とない光と色を湛えていたのに

花々と心中しよう露含み腐り崩れて泥と化すため

いつまでもいつまでも見た海の泡これが夢ならすべてが夢だ
―二〇二〇年六月二十一日


148首〜155首

顔ばせにかすか差せり影色もかぐわしききみ憂鬱呑みて
―二〇二〇年六月十六日

研ぎ澄ます神経痛の末端に刺さった骨はあまりに白い

射干玉に夏の夕暮れ影法師川を上りて我へと迫る

遮れど十指で足りぬ川水に人意が流れ波及を許す

車窓から移ろう景色或いは吾がため遺るビデオテープか

なまぐさい翅の端切れ継ぎ接いで死骸は夏のジュエリーだもの

うらぶれて貪るだけが唯一の泣き方という気取った弱者
―二〇二〇年六月十七日


141首〜147首

線引きの内にて眺むる枕木に二次元の鳩なおも羽ばたく

そよげども揺るる形相悍ましき路傍に咲いた人喰いの花

はらわたの奥深く在る暗闇を生むも我なら震えしも我

宇宙とは七〇億のはらわたに潜む不可視の闇をこそいふ

嘗てなら開くことなき部屋のかど仄暗きゆめ灯りに死せむ

目を瞑りなお現れぬ幽体に我と闇との決別を知る

―二〇二〇年六月十三日


135首〜140首

思い出にするということ思い出になることとは違う画用紙

握られたてのひら解く皺を縫い爪痕にじみ冷えた輪郭

血肉にもこれはなるまい紙丸め乾いた心地てのひら伝う

本当にしてしまってと顔覆うきみの脆さを分からぬ僕だ

立ち尽くす睛眸失い足縺れそれでもいまだプリズムさがして

ささくれが増えてきました手が乾く滑らせるだけに長ける指先

空白を恋や愛やに例えてさうつくしいけど嘘っぽいよね

余地余白、絵の具で仕上げ可能性うんざりするほど目映い遊び

―二〇二〇年六月十日


127首〜134首

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