見つけたぞ隻!
うっげ!
なんだ、そんな嫌そうな顔するなよ。さあて、これでもう逃げられんぞー
放せよっの鬼! 誰が教室なんか戻るかああああああああああっ!!
おーおー、でかい声出しやがって。鬼に捕まえられたんなら大人しく連行されろ、捕まったお前が悪い
誰が、いつ、鬼ごっこしたってんだよ!! だっから放せ、自分で歩くよ!!
ははっ、お前が鬼なんて言い出したんだろ。また授業中抜け出すんならいつでも鬼ごっこしてやるぞー
……嘘だろぉ……
笑えないほど、優しい笑みが黒の中に消えていく――。
「先生!」
消え去った後姿を隠す闇が、
所々で地縛霊の悲鳴が聞こえる。
海理と千理が苛立ち任せに「はっ」と声を漏らした。
「鬼ごっこぉ……? ふざけてんじゃねえやい」
『オレたちレーデン兄弟相手に子供の
「……おーい二人と」
『鬼超えて
「レーデン兄弟
ぎゅんっ
それこそ校門前で見かけた比ではない勢いで廊下を駆ける千理と海理に、いつきが頭を痛めきった顔で舌打ちをしている。
「っのバカが……!」
「隻さん!」
はっとした。
千理が階段の踊り場で振り返っている。にっと笑う彼が拳を持ち上げて、階段へと体を向けながら笑ってきた。
「こっち、任されました!!」
「――勝手に人の出番取るんじゃねえよ!! さっさと行け!!」
「ははっ、了解!」
『各自配置につけえええええええっ!!』
翅がげらげらと笑いながら「りょうかーい」と敬礼。腰が折れた頼りない警察に、いつきが頭を叩いている。響基は苦笑いだ。
「俺たち相手じゃ逃げ切れないよなぁ、先生」
「……本当にな」
逃げる気ないだろ、
苦笑いが零れてくる。あのバカ兄弟のせいで、隻を締めつける真っ暗な空気がぶち壊された。戻れなくなった。
人を大勢殺したはずの相手に向かって、鬼ごっこでも警泥でも負けないと吠えて追いかけるあの二人の歯車は、どうかしている。
青慈が笑いながら肩を叩いてきた。
『で? 警部は追いかけないのかな?』
「ふざけんな」
警部? むしろ自分は下っ端だ。
新米すぎてボールしかまともに出せなくて、幻術使いでも人間的にも下っ端中の下っ端だ。
それでも、何故か笑いばかりが漏れてくる。
「――追いかけるに決まってんだろ!」
階段へと駆け、手すりに足をかけて一気に滑り降りる。
久々にやっても体は間隔を覚えたままだ。踊り場まで一気に来ると一度床に飛び降り、さらに下の階まで一気に滑り降りる。
慌てた足音で、響基が顔を真っ青に。翅は声を上げて笑いながらやってきた。
「隻っ、ちょまっ、危ない!!」
「隻かっけー」
にやりと笑う隻はバスケットボールを出現させる。
踊り場に到着すると同時にドリブルを一回、二回。
三回目で手に収め、ボールで手の平を勢いよく叩いた。
「二年間逃げた俺から逃げられると思うなよ」
隠れ場所なら、いくらでも知ってるんだ。
鍵は全ての教室で開け放たれていた。
二階の三年の教室はほとんど隠れられる場所はロッカーぐらいだ。そんな簡単な場所に一々隠れるような先生じゃない。
パソコン室の机の下は窓側からでは見えにくい配置が多く、そこを重点的に見やったが姿はなかった。代わりに地縛霊の少女がインターネットをしていて、思いっきり吹き出した。
「お前何やってんだ!?」
『ちょ、ちょっと調べ物……』
死んでからでも調べたいことがあったのか。
気を取り直して開け放った男子トイレでは歯磨きをしていた地縛霊に出くわした。
『あ、おはようございまーす』
「今、夜!!」
一階に飛び出して、周辺を見渡した隻は反対側の階段から降りてきた千理を見つけてげんなり顔だ。
あいつ、なんで俺より遅いんだよ。
「あ、隻さん見つけた!?」
「二階は地縛霊ばっかりだった!!」
「ですよねー! ――っとに邪魔くせえやい!!」
蹴飛ばした。
やはり千理たちには攻撃をしかけようと近寄ってくる怪談はいるらしい。千理の体力が化け物すぎて、相手にならないようだけれど。
一番厄介だった本の幻生がいなくなったことで、別の怪談に集中できるからだろう。愛用の刀を鞘に収めたまま、腰溜めに構えた海理が千理の真後ろに来た幻生に、刀を素早く抜いてまた綺麗に鞘に収めた。
幻生が一気に崩れ、闇色の糸が散る。
『オレ流、居合い斬り。ってな』
「……かっけー……」
今は
「いやあああああくんなあああああ!!」
『待って翅斬るの俺なんだよおおおおおおおおっ!!』
「煩い!」
……上の階ではホラー恐怖症主従コンビの凄まじい叫び合戦か。楽器を奏でて幻生に対抗している響基に同意したい。
はっと気づいた隻は、青ざめて上の階を見上げた。
そういえば士、萌がぶっ倒れてたら動けないんじゃ――!
……いつきも、走れないよな。
「……後で謝らないと……だよ、な」
萌はともかく、いつきと士に怒られるのは勘弁願いたい。あの二人絶対怖い。
外を見やった隻はぶっと吹き出してしまった。
何が面白くて、でかい頭蓋骨に足が生えた幻生が走り回っているのを見なければいけないのだろう。
しかもその幻生がこちらにくるりと頭を向けてきて、下顎がぱっくり落ちた。
『見ツカッタ』
「え――」
ぞっと背筋が粟立った刹那、
髑髏はそのまま勢いよくガラス戸を破って――
三日月形の水に叩き割られた。
海理が『あ、弱え』とこぼし、隻は壁伝いにずるずると腰が落ちてしまう。
「……ちょっ……今の」
『あ? あれぐらいで腰砕けてどうするんだよターコ』
海理の刀から水が滴っている。納得すると同時に声が出ない。
お前本当に幽霊か――――――――!
『てめーご丁寧に怪談の条件踏みすぎなんだよ。ちったあ無視にも努めろ。見ざる聞かざる言わざるだ』
言われてはっとした隻が理解したと思ったのか、海理は平然と千理が去っていった生徒用の靴箱に向かっていった。
見ざる、聞かざる、言わざる。
「……そっか……」
強くなりな
あの声は――
「ぎゃあああああああやめてええええええええ!!」
『え、インターネットできるの!? 怖いよー電源どうやって入れたんだよー!!』
「アヤカリ突っ込む場所違う!! ――あ、そっか。ポルターガイスト現象ってそういう使い方あったんだ」
「納得しないで響基!!」
……やめておこう。今考えてもこのらんちき騒ぎでは回る頭も回らない。
溜息をつきながら立ち上がる。ぐったり顔で肩を回して苦い顔になる。
……。
…………。
……………………。
「……どこまで探したんだっけ」
ド忘れしてしまった。
「二階はともかく三階には姿形もなかったぞ」
いつきが降りてきて、一階全てを駆け回って探した隻は渋面を作った。ついてきている青慈と、萌を背負った士もうんと頷いている。
……妹に背負われる兄って、なんだか立場がない。
『こういう場合、すっ飛ばして屋上とか?』
「あの先生単純な場所ほど隠れないんだよ。推理するなら難しいところがいいとかなんとか」
面倒くさいという顔をするいつきたちに、隻もまったくだと頷いた。
それがわかっているから、入りもしない給食室の大鍋を置く棚をくまなく見たり、まさか冷蔵庫に入って自らカチンコチンになってやしないかと開けて、残り物の牛乳を飲んでいた妖怪に悲鳴を上げてボールを投げつけたりしたのに。
……冷蔵庫の棚、歪んでませんように。費用持てない。
職員室も探したが当然姿はなく。校長室に頭を下げて入った途端に、額縁の中の歴代校長から『こんな時間に何用だね!』だの『まったくここの卒業生ともあろうものが!』だの、散々に文句を言われてしまい。明らかにここに糸川が長居できるはずがないと、「すいませんでした!!」と大声で謝って扉を閉める羽目になった。
事務室では怨念をつらつらと語りながら事務作業をする、職員の地縛霊の姿にいたたまれず合掌した。PTA会議室を覗けば、むしろ何もいないことが恐怖に感じたほどだ。
だから、給水器の前で『水ー、水ー』と泣く生徒の霊の姿に情が湧いて、給水器のレバーを押したし、それを見て嬉しそうに水を飲んだ霊が成仏していく姿に、言い知れない
隼があちこちの給水器の、足で踏めるレバーのほうに重石を乗せ、水を流しっぱなしにしていた理由がやっとわかった。
「えー……と……じゃあ放送室はー」
「千理が前怪談倒したからよりつかねえだろ。あの先生、ここの地元の怪談には好かれてないんじゃないか?」
自分で言って苦い顔になった。怪談に地元と
……だめだ、清水寺の三下天狗を思い出した。
「職員用の更衣室は?」
「わー
「はあ!? てめえ何言って……」
近くの扉を見やって、いつきが固まった。