幼馴染ちゃんは直哉くんと離れたい


移動の時、直哉の隣に座るのはいつも私だった。

東京校は、2人くらいの任務が多いらしいが、京都は昔ながらの建造物が多いせいか、4〜5人で任務に当たることも珍しくない。複数人数での任務の移動の時に使われているバンの座席は大体決まっている。直哉の隣に座りたがる人が居ないからだ。
別に誰が隣だろうが気にしないけれど、直哉に関わる人間が少ないことが幼馴染の私からしてみたら心配になってしまう。直哉にだっていいところはあるのに、みんなに性格悪いって思われてることが、正直不憫だ。直哉は努力家だし、好き嫌いは激しいけれど、逆に言えばはっきりした性格なだけだし。


「今日は直哉の隣に座らない」

任務に向かう移動車が来たとき、そんな言葉を口にしてしまった。「は?」と直哉は目を見開いて私を見てくるけど、気にしないフリをした。そして、同級生の女子の手を取り、一番後ろの一番奥の席に乗り込んだ。残ったのは、直哉と一緒に任務に向かう歌姫先輩と男の先輩。歌姫先輩は、めんどくさそうな顔をしながら「お先に」と言って助手席に乗り込む。あと2列シートが残っていた。


「なまえなにがしたいんじゃ」
「アホらし」

想定外だった。残った二人は隣り合う席に座ることなく、それぞれがそれぞれ別の列に座った。


「そこは二人並んで座る所じゃないの?」
「男同士並んで座れるかい」
「同意」
「はい?なら女子なら並んで座ってくれるんですか?直哉は?」


私が投げかけた問いに直哉は答えなかった。
けれど、男子二人の言い分は、確かに。と思えるものだった。直哉は男同士ではそれなりの関係を築けているのだろうか。そもそも、男同士はそんなもんなのかもしれない。必要以上にベタベタする必要もないし、隣に座ってたら狭いだろうし。


「なまえは俺が他の女の隣に座ってもええんやなぁ」
「はい?!」
「よう知らん女が俺の隣におってもええんやなって聞いてるんよ」
「……それは嫌」


直哉を試している私を試すような言葉を口にする直哉。直哉が私以外の人に勘違いされたままなのは嫌だけど、直哉の隣に私以外の人が居るのはもっと嫌だと思った。


「想像力の欠如やね」
「…ごめんなさい」


きっと私が直哉にしたことは直哉にとっては大きなお世話でしかない。そんなこと最初から分かっていたことなのに。どこかで驕っていたのだと思う。小さい頃から直哉がずっと隣に居て、直哉の隣に私以外の女の人がいなかったことに。想像力の欠如。まさにその通りだった。直哉が「もういらない」と言えば、私は近づくことすら出来なくなるのに。


「分かったら帰りは俺の隣に来るんやで」
「うん」
「なまえがずっと隣におるから、おらんのがほんまに気持ち悪いわ」


座席の背もたれから身体を乗り出して、直哉が告げた。その目は私を見据えていて、これからも直哉の視界の中に居たいと、そう思ってしまった。