直哉くんはあまのじゃく


「直哉、私彼氏できるかもしれない」
「は?」
「告白された」
「んなアホおるんやな」
「止めるなら今だよ」
「なんで俺が止めんねん!笑かすなや!」


私と直哉は世間一般で言う幼馴染ってやつだ。それ以上でもそれ以下でもない。呪術という繋がりのせいで、普通の幼馴染よりは距離が近いような気がする。異性の幼馴染は、中学生くらいになったら自然と距離が離れて、話をしなくなることが多いらしく、私と直哉の関係性を「おかしい」という人間もいる。でも、私たちにとってはこれが普通なのだから、普通と思っている。

その関係性がいつまでも続くなんて思っているわけもないけど、直哉に彼女が出来ても私たちの関係は変わらなかった。少女漫画によくあるように、彼女より幼馴染のほうを大事にしてしまうから、なんてことはなく、ただ単に直哉に女性蔑視の兆候があるからという理由で直哉の恋人との関係が長く続かなかったからだ。が、今回は違う。私が告白をされたのだ。つまり、私に彼氏ができるかもしれない。かもしれない、なのは、未だ迷っているからだ。相手は、中学の時の同級生。見知らぬ人ではない。偶然、街で再会して、帰り際に「好きだった」と告げられたのだ。第一印象は「今更?」だった。だから、答えを保留にしてしまったのだ。中学の卒業前に告白されていたら、間違いなくOKしていただろう。中学生ってそういうものじゃない?


「相手、俺が知っとるやつ?」
「同中の佐々木くん」
「ふーん。へ〜。ほ〜〜〜」
「興味あるの?ないの?どっち?」
「興味ないわけやないけど、どうしても知りたいかって聞かれたら別に?みたいなライン」
「どうでもいいんじゃん」
「どうでもいいわけやないで?」
「んじゃなによ?」
「どーしょうもないヤツやったら、全力で止めるわ」


変なの。直哉の言葉に一瞬、きゅんとしてしまった。
どうでもいいなんて言いながらも、私のこと心配してくれてるんじゃん。こういうのってなんかいいな。家族でも恋人でもないのに、私のこと思っていてくれる人がいるって結構貴重じゃない?嬉しいとありがとうと、ほんのちょっとの好きが混在した感情。


「あ〜〜本当にどうしよ」
「悩んどるんか?」
「えっと、あ〜、うん」
「それならやめとけや。ええことないで?」


今日の直哉はちょっと私に優しくて調子が狂う。いつもみたいに「当たって砕け散れ」くらい言ってくれれば、私も意地になって「直哉がそこまで言うなら付き合うわ!」って言えるのに。

予想外の直哉の問答に調子が狂う。「とりあえず付き合ってみる」か「その程度の気持ちならやめておけ」か。自分の中でも答えが見いだせない。もしかしたら、酔っているのかもしれない。少女漫画の主人公になったような、取り合われているような、そんな自分に。だけど、直哉の言葉の意味はきっと私の望んでいるものではない。直哉の経験から、「やめておけ」と言っている程度のこと。ここで直哉に「俺が好きだから付き合うな」って言われたら喜ぶんかな?って考えが頭の中に浮かんで、愚かな自分を恥じた。



「やっぱり私に彼氏はまだ早いわ」
「せやろ?もう少しおしとやかやヤツが佐々木にはあってると思うわ」
「うっさい、直哉」


容量の小さい頭が捻りだした答えは「考えるのをやめる」ことだった。だって、佐々木くんの隣に立つ自分が想像できなかったのだから仕方ない。直哉の私に対する感情は少女漫画的なものではないけれど、私は少女漫画のヒロインポジに憧れる愚かな女なのだということに気づかされただけだった。



「簡単に彼女作れる直哉が羨ましいよ」
「顔がええから仕方ないな〜」
「そういう意味じゃない」
「モテない女の僻みにしか聞こえへんわ」


きっとこれから先も、直哉は彼女をとっかえひっかえして、私は色々考えすぎて彼氏がいない日々を過ごすんだろう。めんどくさいなぁ、人間関係って。