土砂降りの雨


しとしとと雨が降る音で目が覚めた。

知らない場所、知らない香り、薄暗い部屋。
何故かガンガンと痛む頭を抱え、手探りでスマホを探した。


「…ん?」

手のひらに当たったのは、メガネではなく人の頭だった。頭まですっぽりと布団を被っているその人物が男であるのか女であるのかすら現状分からず、戦々恐々しながら、そっと掛かっていた布団を剥いだ。小さく丸くなり眠る人物には見覚えがあった。これは完全にやらかし案件だと確信して血の気が引いた。だって記憶が無い。全くない。昨夜何があったのかも思い出せないので、情報を整理して頭を落ち着かせることすら出来ない。そしてもう一つ確信を得たこと。ここは俺の家ではないということだ。物が少なく片付いているという点だけは共通していたが、この部屋にはテレビが無かったし、机の上にノートパソコンもなかった。ベッドサイドにティッシュ箱とゴミ箱があるだけ。怖くてゴミ箱の中身は確認できなかった。

つまりここは、彼女―なまえの家だということになる。
なまえは、京都校の教師だ。年は一つ下。長期任務が東京であるから、と東堂と東京に引っ越してきたのはつい最近の話。そして、昨日はそんななまえの歓迎会と俺の誕生日会を五条先生主催で開催した。半ば強制参加だった。主役なんだから、とご馳走を振る舞われた後、みんなでカラオケに行ったことはぼんやりと思い出せる。隣に座っていたのは東堂と虎杖で、二人のテンションについていけない俺は、黙っている理由に酒を飲んだんだと思う。そして、その後の記憶が全く無い。そして気が付いたらここにいた。

この状況から導き出される答えは一つしかない。どう考えてもそれしか思いつかない。まさかとは思うけど、「酔った勢いでヤッちゃいました?」なんて聞けるわけがない。いやむしろ聞くな。聞いたところで誰も幸せにならない。それなら、イチかバチかでなまえも何も覚えていないことに賭けようと思った。同じ主役だったんだし、なまえもそこそこ飲んでいたような気がする。なまえの隣に座っていたのは家入さんだったし。

テーブルの上に置かれたスマホとソファに置かれたカバン、荷物はこれだけだったはずだ。時間を確認すれば、もうすぐ8時。床に散らばった服をかき集め、急いで服を着た。ちょうど靴下を履き終えたところで、聞きなれないアラーム音が鳴って、ベッドの上の塊がもぞもぞと動き出した。布団からアラームを止めようと白い腕が出てきてアラームを止める。何も覚えていない俺に、彼女と顔を合わせる勇気なんかなくてカバンを抱えてバタバタと部屋を後にした。

今思えば、これが悪夢の始まりだった。