一緒に歩く水曜日


会社を退勤して、自社ビルの外に出ると外はもう暗かった。その中にクリスマスの訪れを予告するイルミネーションが所々で輝いているのが見えて、気持ちが躍るのは幼い時代の名残りなのだろうか。イルミネーションは好きだけど、寒いのはどうやっても慣れない。首元に巻いたマフラーを締めなおして、帰り道を歩みだす。


「なまえ〜〜」
「悟」
「迎えに来ちゃった」
「連絡くれればよかったのに」
「びっくりさせたくて」


会社の外の花壇に腰かけている悟が立ち上がってこちらに歩み寄ってくる。会社を出た時から女の子がザワザワしているなぁと思ったけど、悟が居たせいだったのか。
高身長の悟は居るだけで目立つ。明るい髪色で夜でもサングラス姿なので、声を掛けられることはほとんどない。それでも、遠巻きから悟を眺める女の子は少なからずいる。今日、家を出るときの職場用の服から着替えているところを見ると一度家に帰ったのだろう。ブラックのタートルネックにチャコールグレーのロングコートは悟によく似あっていたけど、迎えに来るだけで着替えて来たのかな?と考えると少しかわいいと思えてしまった。


「せっかく仕事早く終わったしご飯食べに行こう」
「あ〜それで着替えて来たの?」
「そうそう。なに食べたい?」
「お鍋〜」
「それなら家でも食べられるでしょ」


ポケットから悟がスマホを取り出して、近くにある店を検索している。表示されたページに一番最初に表示された「しゃぶしゃぶ」の文字に引かれた。どう抗っても私は寒いのだ。まずは暖を取りたい。


「しゃぶしゃぶがいい」
「だってこれチェーン店だよ?」
「別にいい、気にしない」
「僕はもっとこう美味しいもの食べさせたいの」
「二人で食べれば何でもおいしいよ」
「それはそうだけど、ってなまえ待って」


もう寒いしお腹は空いてるし、で我慢できなくなってその腕を引っ張って歩き出す。勤務先の近くだから、地図は見なくても大丈夫。いつも悟に振り回されてばっかりだから、たまには私が振り回したっていいでしょ?


「…敵わないなぁ」
「私はそれいつも思ってるよ」
「知ってるよ」
「お互いさまだね」


先に歩いていた私の隣にいつの間にか追いついた悟が私を見て微笑む。私は悟の腕に自分の腕を絡める。悟の温もりを感じて歩くのは好き。寒いのは苦手だけど、嫌いにはなれない。だって、悟にくっついて歩く理由が出来るから。