背徳感と戦う金曜日


明日は土曜日だから、たまには映画でも見て夜更かししようよ、と言われたのが22時。日付が変わって現在1時。2本目がちょうど終わったところで「そろそろ寝るね」と口にした。不服そうに「えーまだいいじゃん」という悟だけど、休みの日にだってしなきゃいけないことがたくさんある。


「でももう眠い」
「ここで寝ちゃったら僕がベッドまで運んであげるしさ」
「悪いし」
「甘えてよ」
「別にその優しさは求めてない」

テレビの前に置いてあった、自分の分のマグカップを持って立ち上がる。不服な悟はまだ「でも」と「だって」を繰り返すけど、人間は三大欲求には勝てない。眠いが勝った。


「あ、冷蔵庫の中に伊地知に貰ったケーキあるよ」
「ケーキ?」
「しかもなまえの好きなチーズケーキ」


もう少し起きていようかなという方向に気持ちが傾く。けど、時間はもう1時だし、この時間のケーキはデブのはじまり。ぐらんぐらんと理性が揺れる。コーヒーだけ飲んで映画を見ていたから小腹は空いているし、明日は休みだし。どっちつかずの理性にとどめを刺す様に
悟は「僕は食べよ〜」と言って、冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出す。


「なまえは?どうする?」
「う〜〜〜〜」
「食べちゃえば?」
「………食べる」


私の意志の強さなんて小枝くらいの強度だった。さっきまでいた場所に逆戻り、ソファに座って悟が用意してくれているケーキを待った。深夜のケーキは罪悪感の塊に他ならない。


「紅茶とコーヒーどっちにする?」
「コーヒー」
「お砂糖は?」
「ミルクだけいれる」


甘いもの大好きな悟と一緒に暮らすと決めた時から、きっとこうなることは決まっていたんだろう。甘い甘いメイプルシュガーの中で私は溺れるんだ。


「手伝う」
「ありがと」
「そういえば伊地知さんにお礼しなきゃね」
「えーいいよ、僕がいつも伊地知のことお世話してるんだから」
「いやいや、私の好きなものまで買ってくれてるんだよ。お礼はちゃんとしなきゃ」


ドリップコーヒーを淹れてくれている悟を手伝うためにキッチンに赴くと、逆にやりにくくないか?ってくらいくっつかれた。なのに、伊地知さんの名前だした途端にそっぽ向いて離れるから、きっとやましいことがあるんだね。もう聞かないけど。


「やっぱり砂糖入れようかな」
「うんうん、それがいいよ」
「明日はジム付き合ってくれるんだよね」
「もちろん、どこでもご一緒しますよ?」


あまいあまいメープルシュガーの海で二人溺れようか、今夜はとことん。