午前7時の誘惑


12月、朝が寒くて起きるための『あと五分』が一回多くなる季節。今日も今日とてそれは変わらない。けど、今日は悟が早く起きなきゃいけないから、あと五分の気持ちを押さえつけてアラームを止めて起き上がった。寝室からリビングに移動して眠気覚ましのためにカーテンを開けた。窓越しに外の冷気を感じて、思わず身を震わる。外はまだ薄暗かった。

キッチンで朝食の支度をして、コーヒーを淹れる。日常のルーティンをこなし終えたら、ちょうど悟を起こさないといけない時間になっていた。


「悟、起きて」

ベッドの端に座って、すやすやと眠る悟の頭をそっと撫でた。一度で起きないのは分かってる。だから、優しく起こした。この寝顔は私しか見れない、私だけの特権。少しくらい堪能したって許されるはずだ。ふわふわの髪を手のひらで撫でつけていると、悟がそっと目を開いた。そして、「ん、……あさ?」と次いで寝起きの掠れた声が聞こえてくる。


「そうだよ、もう起きて?」
「あとちょっと」
「だめだよ、今日は早くいかないといけない日って悟が言ったんだよ?」
「ん〜ならちゅーしてくれたら起きる…」
「ちゅーだけで終わらないでしょ?」
「なまえよく分かったね」
「もう何年一緒に居ると思ってるの」
「なら僕が諦め悪いってことも知ってるよね?」


布団の中から伸びて来た悟の手が私の後頭部に置かれて、悟の方へと引き寄せられる。抵抗は無駄だと知っているので、されるがままに唇を重ねた。くっついて離れた唇は悟の「もっと、」の言葉と共に再び重なる。今度は舌先が唇を割ってきて口内に侵入してきた。身体を支えるためにベッドに手のひらを着けば、ぎしっとベッドが音を立てる。


「あー起きたくないなぁ」

そう言った悟は、私がベッドについていた手を引いて、ベッドに呼び込んだ。「ちょっと、悟」と形ばかりの抵抗をしてみるけれど、その言葉も空しく再び重ねられた唇で遮られてしまう。
はむはむと唇を食べるように繰り返されるキスの最中、悟が私の服に手を掛けた。着ている私の服の前を開けさせて、足元から身体のラインを撫でられる。


「ちょっとだけ、ね?」
「…ちょっとだけだよ」

私の上に、悟が馬乗りになった時点で既に諦めモードに入っていた。耳朶を甘噛みしながら耳元で、悟が「ちょっとで終わらなかったらごめんね」いつもより低い声で囁く。

が、そんな甘い雰囲気をぶち壊すように悟のスマホの機械音が鳴り響いた。電話の呼び出しを告げるその音に、私が「電話だよ」と告げるも悟はお構いなしに私の胸元に顔を埋める。せめて相手は確認しなきゃ、とベッドサイドに置かれたスマホに手を伸ばした。ギリギリで届いたスマホを手に取って悟の前に差し出すと、諦めたように悟がスマホを受け取った。

「朝っぱらからなに?」と不機嫌丸出しの声で電話に出る悟。漏れ聞こえてくる会話を聞く限り、相手は仕事関係の人で、悟が寝坊していないかを心配して連絡をくれたようだ。最後に「はいはい、わかった」と言って電話を終わらせた悟がベッドの上にスマホを放り投げる。


「…ちょっとはもう終わりね?」

服を正しながら悟に告げると心底がっかりした顔の悟が、「伊地知あとでまじビンタ…!」と強い決意を固めていた。