午後1時のお昼寝


「おなかいっぱい〜」

午後の任務もない平和なある日、昼食を終えた私は硝子の居る医務室を訪れた。硝子はいつものようにコーヒーを飲みながら「ベッドは病人のためのものだぞ」と窘めながらも、ベッドに寝ころぶ私を追い出そうとはしない。


「なぁなまえ」

ガラガラとキャスターを鳴らして硝子が私の寝転ぶベッドに近づいてくる。いつ見ても美人だなぁなんて呑気なことを考えている私に、硝子は「五条のどこが好きなんだ?」と答えにくい質問をぶっこんで来た。


「え、急に何」
「お前たちももう付き合って長いだろう?」
「う、うん」
「五条のどこが良くてそんなに長く付き合っていられるのか私にはとんとわからんもんでな」
「…なるほど」

硝子の言葉にはどこか説得力があった。私と硝子、それに悟と傑は同期だ。硝子は昔から悟にも傑にも全く興味がなさそうで、私が悟を好きだと気づいた時には「あの男のどこがいいの?」と言われたし、付き合うことになった時にも「ご愁傷様」と言われたものだ。今更感はあれど、改めて問われると恥ずかしいものがある。私はもう学生ではない、いい大人なのだから。


「あぁ見えて誠実なところとか、優しい所とか…」
「ふぅん」
「あ、あと、頼りになる所も好きだし、意外と家庭的なところもあるよ」
「そうか。顔じゃないんだな」
「え?顔?顔ももちろん好きだけど、それだけじゃこんなに長く付き合えないよ」
「まぁそうだわな」

硝子はデスク付近までガラガラとキャスターを鳴らして戻り、再びコーヒーを口にした。その表情は呆れとも納得とも取れるものだった。「ブラックコーヒーすら甘くなるような話をありがとう」と告げた硝子は、コーヒーカップを置くと、「だそうだぞ、五条」と言ってカーテンで閉じられたベッドのカーテンを引いた。そこに悟が居た。どうやら隠れて話を聞いていたらしい。私は思わずぎょっとして身体を起き上がらせた。


「……なまえ、一生幸せにする」
「え?え?なんでいるの?」
「五条がなまえにプロポーズしたいがなまえの愛を疑っていたから確かめろと言ったらこうなった」
「直接聞いてくれればよかったじゃん」
「直接聞いて、顔が好きとかセックスがうまいとかそれだけ言われたらへこむ…」
「そんなこと言うわけないじゃん!」

私の言葉を聞いた悟の表情はあからさまに明るくなった。まるで周りに花が咲いているように。かわいい。かわいいなぁもう。悟は照れたように頭を掻きながら、「だって、なんか不安だったんだよ」と言い訳をしている。それすらかわいい。


「なまえ、こっちに来て一緒に昼寝しようか」
「おい、五条。ここはラブホじゃないぞ」
「硝子!何言ってるの」
「硝子もこう言ってるし、地下室行こうか。なまえ?」



硝子の予想通り、地下室に行った私は悟に抱かれることとなった。事後、悟は私の手を握りながら、眠ったようだった。今日は夜に任務があると言っていたからもう少しだけ眠らせてあげよう。すやすやと眠る悟を見ながら、悟のことをずっと好きだなぁと思っていた。これから先もきっと、悟のことだけを好きでいるだろう。そんな予感があった。