午後3時の悔悟


「あ〜悟いた!見てみて」

高専の古い廊下を軽い足取りで僕の方へ駆けてくるなまえは、懐かしい服を着ていた。僕の目の前で止まると、くるんと少し風でスカートが膨らむように一回転をする。


「どうしたの?それ」
「今度、高校に潜入調査があるんだけど、童顔だからいけるんじゃない?どう?」
「どう…ん〜」


僕は不自然になまえから視線を離した。理由は単純明白。高専の制服に袖を通したなまえは、昔のなまえのままで、眩しくて、懐かしくて、苦しくなったから。あの頃より幾分か身長が伸びて、肩幅も広がったけれど、やはり女性らしい華奢な身体つきが背徳感を誘う。昨日も抱きつぶしたその体が、制服に身を包んでいるのを見るのは、正直、複雑な気持ちにならざるを得ない。そんな僕を知ってか知らずか、なまえは顔を覗き込むようにして僕の反応を伺う。そして満足そうに微笑んで、「五条くん?」と出会った当時のように僕の名前を呼んだ。

「ねぇねぇ、似合う?」
「うん、似合ってるよ」
「ほんとう?」
「本当だよ」

僕はなまえの目を見ずに答える。嘘じゃないけど、本当の事でもないからだ。でも、それが分かったのか分からないのか、なまえは僕の顔を覗き込んで嬉しそうな声色で話を続けた。


「よかった。もう制服は無理って言われたらどうしようかと思ってたから」
「そんなこと言うわけないでしょ」
「そう?さっきから悟が目を合わせてくれないからダメかなと思ってたよ」
「それは…さぁ」


本当のことを言うべきか言うまいか言い淀んだ僕を見て、なまえはまた笑う。いつもと変わらない表情をして、なのにその身はあどけなさを垣間見せて僕の心をかき乱す。出会った頃と同じ様に。


「ねぇ、悟」
「何?」
「私のこと、好き?」

なまえは時々、本当にずるい。そんなの「好き」に答えは決まっている。決まっていて、決まりきっているのに、それを言わせようとするのだ。僕だって男だ。好きな女の子には意地悪をしたくなる。だから、わざとらしくため息をついた。すると、なまえは不安げな顔を見せた。眉毛を下げて、大きな瞳を揺らして、なまえはしゅんとした表情を見せた。

僕の中でどす黒い感情が湧き上がる。なまえをぐちゃぐちゃに抱き潰したい。今すぐに人気のないところに連れ込んで、息すらさせないほどのキスをして、嫌と言われても聞こえないくらい抱き潰したい。きっと泣いてしまうだろう。それでもいい。泣き叫ぶ声を聞きたい。誰にも見せられないような姿を見たかった。


「どうしたの?」
何も知らないなまえは心配そうな顔をして、僕を見つめている。あぁ、やっぱり好きだ。好きで好きで仕方がない。愛おしい。


「なまえ、やっぱり任務は断った方がいいよ」
「え?なんで?」
「制服、他の人に見せたくない」
「やっぱり似合ってなかった?」
「そうじゃないよ。でも、やめてほしい」


僕の言葉を聞いて、なまえは困ったように笑って、それから少し俯いた。そして小さな声で「わかった」と答えた。僕は心底ほっとして胸を撫で下ろす。よかった。これでなまえが潜入調査に行くことはなくなった。


「ところで潜入任務に行かないならその制服用済みだよね?」
「……悟、もしかして」
「せっかくだしセックスしようか?」
「悟のバカ!」

僕となまえは高専内の空き教室に入り込んだ。鍵を閉めて、なまえの腕を引き、乱暴に壁に押し付けた。出会った頃のような感情を思い出させたんだから、責任取って僕を満たしてよ。なまえ?