午後11時のわがまま


お互いを確かめ合った夜、悟はもぞもぞと動くとベッドの端に腰掛けた。
めんどくさそうにスマホを操作したかと思えば、スマホをベッドに放り投げ下着とスエットを身に着ける。暖かいはずの布団の中なのに、悟が居ないだけで少しだけ寒く感じてしまう。そっと立ち上がり、立ち去ろうとする悟の細い指先をそっと強く握りしめた。


「ごめん、起こした?」
「ううん、違うよ」
「伊地知から連絡あって少し出てくるからシャワー浴びようかと思って」
「行かないで?」


未だベッドの端に腰掛けている悟にうしろからそっとしがみついた。じんわりと肌越しに温もりが伝わってくる。心地よい温かさ。せっかくの誕生日なのに、離れたくないな…… 私は悟の首筋に唇を寄せた。そして軽く歯を立てる。ピクリと震える体。でも決して振り払おうとはしない。



「もういっかい、、、しよ?」
「なまえがそんなこと言うなんて珍しいね?物足りなかった?」
「ち、違うよ!」
「ならなんで?」


理由は言いたくなかった。
きっと、悟は呆れる。
そして、私を馬鹿だと思うだろう。

黙ったままでいる私を心配した悟は、振り返り私の額にちゅっとリップ音を立ててキスをした。その瞬間、私は涙腺が崩壊してポロポロと泣き出してしまった。
困らせてしまっただろうか、面倒臭いと思われたかな?嗚咽混じりの声を漏らす。すると、ぎゅっと抱き締められた。ふわっと香る大好きな匂い。この人の全てが愛おしい。
悟を独り占めしたい。誰にも渡したくない。
こんな汚い感情をぶつけたら嫌われちゃうかな?でも止めれないんだもん……どうしようもないくらい、好きになってしまったから。


「言ってくれないと分からないよ?」
「……うん、そうだよ…ね」
「まぁ、なんとなくは分かるけど?」
「え?」
「心配してくれてるんでしょ?僕を」


当たらずとも遠からずな返答に、困惑している顔をしていると悟は再び私を押し倒した。見下ろす瞳には情欲の色が見え隠れしている。私は慌てて口を開いた。「行かなくていいの?」と。


「行かないでって言ったの誰?」
「わたし、だけど」
「だから、少し待ってて。他のヤツに行かせるから」
「でも、」
「でもじゃないの。誕生日なんだから少しくらいわがまま言ったって許されるでしょ」
「うん」
「それに何より僕もなまえと一緒に居たい」


再びスマホを手にした悟は何やら操作をした後、電源ボタンを長押しして再度スマホを放り投げた。「お待たせ」と言って再び重なる唇。優しく触れるだけのキスをして、また離れてを繰り返す。そして次第に深くなっていく。舌先が触れ合う度に、頭の中で何かが弾けるような感覚に陥る。

私が悟にギブアップしても悟は私を朝まで抱き続けた。「誕生日なんだからわがまま言ったって許されるでしょ?」の言葉と共に。