なまえの場合


「なまえ準備出来た?」
「ちょっと待って。帽子被らないと。大丈夫?」
「大丈夫、可愛いよ」


五条先生から貰ったサンタコスを身に着け、大きな紙袋に野薔薇から貰ったペアシューズと先輩たちから預かったペアカップを入れて恵くんの部屋に向かう。悠仁が注文してくれたケーキは悠仁が持ってる。

「じゃあ、私が先に入るから悠仁は後から入って来てね」
「分かった!」

トントンと部屋のドアをノックして、返事を待たずに扉を開く。恵くんには部屋にお邪魔することだけ伝えてあったので、恵くんはちょうどベッドに座って本を読んでいるところだった。


「は?クリスマス?今日だったか?」
「えと、これは五条先生がせっかくだからってくれたやつで、本命は恵くんの誕生日パーティです」
「誕生日?今日だったか?」
「覚えてないの?自分の誕生日」

誕生日すら忘れてたのに急にサンタコスの女が現れたら誰だって不自然に思うよね。失敗しちゃったかもしれない。サプライズを喜んでもらえるとしか思ってなかった私は、想定外の反応にしょんぼりしてしまう。


「それ可愛いな」
「本当?」
「なまえいつもより可愛いよな?」
「恵くん〜〜」

割れ物が入っている荷物を入り口の近くに置いて、恵くんに飛びつく。ベッドに座ったままだった恵くんは、急に飛びついてきた私を支えきれずにベッドに倒れ込む。まるで私が襲ってるみたいな体勢になってしまった。驚いてすぐに離れようとしたけど、腕を掴まれて「いいよ、このままで」と言われる。身体の力を抜いて、恵くんの身体の上に倒れ込む。そのままぎゅうって抱きしめられて、ちゅ、と額にキスをくれる。目を瞑れば、今度は唇にキスを落とされる。そこまでされたところで、形勢逆転。恵くんが私の上に馬乗りになった。


「サンタさんプレゼントは?」
「あのね、何がいいかすごく迷っちゃって、結局決められなくて、今度一緒に買いに行ってくれる?」
「?あれは?」

顔だけプレゼント置いた場所を向いた恵くん。「あれは野薔薇と先輩たちから」と告げたところで、ドアが開けっぱなしなことを思い出した。でも、恵くんにどいてなんて言えるわけなくて、どうしようと途方に暮れていると、「ケーキ入り口のところ置いとくな!」と悠仁の声だけ聞こえてきた。ドアの隙間から手だけが差し込まれ、入り口にケーキが入った箱が置かれて、すぐに閉まった。


「け、ケーキは悠仁から」
「まだなんかあるのか?」
「…ないです」
「ならなまえ貰っていい?」
「貰うってどういう…?」
「……しよ?」


言葉を口にしてしまえば、好きが爆発してしまいそうだったのでただ頷いた。野薔薇ちゃん、五条先生、二人の言う通りでした。プレゼント、喜んでもらえますように。




おまけ。
野薔薇ちゃんに貰ったスニーカーを履いて、改めて恵くんの誕生日プレゼントを買いに行った。別に欲しい物がない、と恵くんは言うけれど、やっぱり何か形あるものを残したくて。

「これ、欲しい」

そう言って、恵くんが選んだのは写真立てだった。「なまえの写真飾る」って言うので、せめて二人で撮った写真を飾ろうって言った。けど、先輩たちと野薔薇ちゃんと悠仁と五条先生とみんなで撮った写真も飾りたいなって思って、同じものをもう一つ買った。

飾れるような写真をたくさん撮ろうね。
二人の思い出、みんなとの思い出たくさん作ろうね。

恵くん、生まれてきてくれてありがとう。