好きに溺れて愛を夢見る


「いらっしゃい」

ドアをノックすると、悠仁が笑顔でわたしを迎え入れてくれる。今日は課題もないし、たまにはゆっくり二人で映画でも見ようかって話しになったのはつい先ほどの話だった。部屋へ戻って、着替えをして。早く二人になりたかったら、5分もかからなかったと思う。悠仁も着替えていて、制服とあまり変わらないけどパーカーにハーフパンツのラフな格好になっていた。


「好きなところ座って」
「はーい」
「なにのむ?コーラかお茶」
「じゃあお茶がいい」
「りょうかい」


部屋に備え付けのミニ冷蔵庫からペットボトルのお茶とコーラを取り出した悠仁は、わたしの隣に座る。「二人きりうれしー」って笑う笑顔がかわいい。その笑顔見ると、やっぱり悠仁のこと好きだなぁって思っちゃう。


「あのさ、なまえ」
「ん〜なに?」
「変なお願いしてもいい?」
「いいよ、なに?」
「前に五条先生に宿儺のにおいするって言われたんだけど、その匂いまだするのか確かめて欲しいって思って」
「におい?どんなにおいだろ?」
「五条先生は口からするって言ってたんだけど」


すんすん、鼻を鳴らして悠仁の近くによる。においなんてしないと思うけどなぁ。悠仁のにおい、だと思うし。「しないと思うよ」と言えば、まだ心配なのか「もっと近くで嗅いでみて」と悠仁は不安そうな顔をする。


「もっと近く」
「え〜全然わかんな…」

もっともっとの言葉に顔を近づけると吸い込まれるように唇が重なって、ゆっくりと離れた。真っ赤な顔をした悠仁が目の前に居て、あ、キスしたんだな。って実感が湧いてくる。


「もう、するならするって言ってよ」
「ごめんごめん」
「びっくりした」
「うん、もう一回していい?」

聞いてよ、って言ったくせに返事はしなかった。でもされるってわかっていると近づいてくる悠仁の顔がさっきよりはっきり見える気がした。


「おい、小娘。騙されるなよ」
「は、へ?宿儺?」


ちゅーする一秒前、ってところで、悠仁の額に宿儺の目と口が現れた。悠仁とわたしが二人きりの時はほとんど出てこないから、珍しくて顔を思いっきり逸らしてしまった。悠仁は額を叩いて、宿儺を戻そうとするけれど、なにか言いたげな宿儺は右頬に移動したり左頬に移動したりと悠仁を困らせた。そして、悠仁も宿儺を戻すのを諦めた頃、また右頬に戻ってきた。


「騙されるなってなに?」
「この男はお前に接吻したいと思っていた」
「…うん」
「それだけで終わりではなく、契りを交わしたいと毎晩お前を思って頭の中でお前を穢している。それが愉快で愉快で。小娘がそれを知ったらどう思うのかと俺が教えてやることにしたのだ」
「マジで宿儺戻れ」

悠仁が右頬を叩くより先に用事が済んだであろう宿儺はその身を消していた。生得領域に戻ったのだろう。残されたわたしは、突然の暴露に悠仁の顔が見れなくて両手で顔を覆った。


「今の嘘だから!宿儺の作り話だから」
「嘘なの?」
「嘘、では、ない」
「悠仁、さっきの続きのちゅー、しよ?」


慌ててる悠仁もやっぱりかわいくて、わたしの初めては全部この人とがいいなって思えた。だから宿儺の言ってたことが本当でも嘘でもどっちでもよくなった。二人でいて、幸せで、楽しくて。
肩に手が置かれて、今度こそ悠仁の唇がわたしの唇と重なった。ただ重ねるだけの子供みたいなキスだけど、あったかくて優しくて悠仁らしくてわたしは好きだった。もっともっとしたいって思った。


「さっき、宿儺も言ってたけど、俺、なまえとエッチしたいって思ってる。けど、さっきみたいに宿儺もなまえのこと見えてるんだなって思ったら、やっぱそれは嫌だから、今はちゅーだけしよ?」

ニカっと笑う悠仁は、そのままわたしを抱きしめた。うん、うん、わたしはその腕の中で何度も頷いた。今日何度目であろう悠仁への「すき」があふれ出て、「好き」と言葉に出した。「うん、俺も」と悠仁が答える。少しずつ一歩ずつ、これからも二人で歩いて行こうね。



リクエストは、虎杖くんで宿儺様絡みでちょっと甘めな雰囲気のお話でした。恋人同士設定で書かせていただきました。宿儺様ってめちゃくちゃ虎杖くんの恋路邪魔してきそうですよね。リクエストありがとうございました!