あまいみつまであと3p


※ 狗巻くんが喋ってます。口調は捏造です。許せる方のみどうぞ。




「熱、何度?」
「わかんない、」
「体温計持ってくるから計って」
「ごめんね、棘」


昔から体の弱い私はよく熱を出す。天与呪縛と呼ばれるらしいそれは、私の身体の免疫力を奪った代わりに呪言が効かないというギフトを与えた。棘が唯一普通に喋れる相手が私だけということもあり、私たちは昔から仲が良かった。今も私が熱を出したら、硝子さんより先に棘が来てくれた。


「何か食べられる?」
「ううん、いらない」
「おかか」
「?」
「ごめん、うっかり。最近はそっちで話すことが多いから」
「そっか、お友達たくさんできてよかったね」
「もういいから黙って寝てて」


棘は手慣れた様子で冷えピタをおでこに貼ったり、ペットボトルのスポーツドリンクとストローをベッドサイドテーブルに並べていく。言葉がなくても、音があって、そこに棘が居るって分かるだけでなんだか安心してしまう。もうこれが私にとっての当たり前だからなのだろうか。

ピピ、と音が鳴って体温計が計測を終えたことを知らせる。起き上がって手渡そうとするけれど、棘が右手でそれを制止した。私に動くな、ということらしい。慣れたように布団の中に手を差し込んで、私に触れることなく器用に体温計だけを奪っていった。


「げ、39度」
「……そんなに?」
「解熱剤先に貰ってくる」
「大丈夫だから、ここに居て」

熱があるのも辛いけど、眠ってしまえばきっと楽になる。今はただ棘が居なくなってしまうことの、一人ぼっちになることの不安のほうが勝ってしまう。心細い。もう18になるのにね。


「すぐ戻ってくる」
「でも、」
「なまえが熱で苦しんでるの見てるほうが辛い」
「なら私も一緒に薬貰いに行く」
「……すじこ」
「え、なんて言ったの?」


高専に入って一年、棘は少し意地悪になった。他人とおにぎりの具で意思疎通ができるようになったから。呆れたような顔をしていたから、「すじこ」に込められた意味もなんとなく察しはついた。そんな風に暈すなら呪いの言葉くらい吐いてくれればいいのに。


「しっかり捕まってて」

呪いの代わりにため息を一つ吐いた棘は毛布ごと私を抱き上げた。落ちないように首にしがみついたけど、熱があるこの体ではやっぱり力が入らない。ただ首にまとわりついているだけのようになった。自分でも思うけど情けないなぁ。


「情けないとか申し訳ないとか思わなくていい」
「…棘」
「やりたくて、やってる、から」
「……うん、ありがとう」
「それにしても身体熱いよ、熱上がってるんじゃん?」


私を抱えなおして、速足で硝子さんの居るであろう医務室へ向かう。私ね、いつも思うんだ。棘が弟でよかったって。こんなに身体は弱いけど、棘の声を聞いてあげられるお姉ちゃんでよかったって。棘も同じように思ってくれてるといいな。


リクエストは、狗巻くんが年上お姉さん(両片思い)の看病をしてる感じの話でした。
リクエストありがとうございました!