金平糖を嚙み砕いて
今年の冬は寒い。
というのに、教室の暖房器具が壊れてしまった。教室の中でコートを着ているなんてバカらしいことをしているのは日本で二人だけだと思う。わたしと、悟だ。硝子は暖房つかないならサボると言って、自主休校してしまったし、傑は昨日から泊りの任務に行っていて不在。つまり、吐く息すら白い教室に居るのはわたしと悟だけだった。
「悟のコート貸してよ〜」
「なんでだよ、コート貸したら俺が寒いだろうが」
「だって悟のコートカシミアでしょ?ボンボンなんだから」
「知らんわ。多分そんなかわんねぇよ」
「絶対違うって」
そう言って悟のコートに触れる。触り心地最高だし、絶対わたしのペラペラのコートよりはあったかい。わたしも欲しいなぁ。でもずっと触ってたら「…勝手に触んな」って悟に怒られた。そりゃ当然か。わたしは悟の彼女でもなんでもないんだから。
「ごめん」
「あーもう、こっち貸してやるからそんな顔すんな」
ぽい、と悟が投げてよこしたのはさっきまで悟の首元に巻かれていたマフラー。この触り心地はこれも絶対カシミアと確信を持って首元に巻きつけた。あったかい、けど同時に悟の香りがして恥ずかしくなった。こんなに近くに悟の香りを嗅いだことはないけど、きっと悟に抱きしめられたらこんな香りに包まれるんだろうなって思ってしまったから。
「夜蛾先生まだかなぁ」
「あ、そういえば任務行くから自習っつってたわ」
「はぁ?それなら早く言ってよ」
「なまえ聞かねーから、いつ気づくんだろって試してた」
「さいてー」
夜蛾先生が来ないならいつまでもこんな寒い教室にいる必要もない。マフラーを巻きなおして、教室のドアを目指す。「どこ行くんだよ」って悟が聞くから「コンビニ。ホッカイロないと死ぬ」って答えた。ふーん、ってだけ言った悟は、なぜかわたしの後をついてきた。
「うわ、外すっげぇ寒い」
「当たり前でしょが」
「マフラーないしなぁ」
「返さないよ」
「じゃあ手繋がせろよ」
口では文句を言いながらも、ヘラヘラしたままの悟はわたしの左手を握った。悟の手はまるで子供みたいにあったかい手のひらだった。冷たいのはわたしの手のほうなのに、どうして握ったの?って聞いてしまいたかった。聞かなかったのは、それを聞いてしまったらその手を離されてしまいそうだったから。
「アイス買おうぜ」
「この寒い中アイス買うとか頭おかしい」
「なんでだよ、授業とかバックレてもう部屋で映画見よーぜ?」
「映画による」
「ミミズ人間1と2」
「え〜あれつまんないじゃん」
「3やるから復習すんだよ」
文句を言いながらもわたしはアイスを買うし、悟と一緒に映画を見るんだろう。だってアイスが冷たいとか、映画がつまんないとか本当はどうでもよくて、わたしはただ悟と一緒にいたいだけなんだから。このどうしょうもなく楽しくて幸せな時間を二人で過ごしたいの、今は。
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