その愛は砂糖漬け


「五条さん」

名前を呼ばれて振り返る。そこに居たのは、七海さんだった。高専時代の同期である彼に結婚した苗字で呼ばれるのはくすぐったい。だからと言って、旧姓で呼んでくれる人でもないし、下の名前で呼んでくれる人でもない。どうしょうもないくすぐったさを抱えながら、手渡された資料を受け取って、二人近況を話しながら歩く。


「なまえ〜」
「え、わ、悟」
「相変わらずですね、アナタは」

私を見つけた悟はその長い脚で私の目の前まであっという間にやってきた。
さっきまでと表情は変わらないものの、七海さんの悟に対する言葉には相変わらず棘がある。昔からそうだったし、結婚するときにも「本当にアレでいいのか」とか「やめたほうがいい」と言われたことが記憶に残っている。


「あ、なまえさん。お久しぶりです」
「恵くん、ごめんね、担任が悟で」
「なんでなまえが謝るのさ、恵は僕たちの子供みたいなものなのに」
「いや、悟が迷惑かけてそうだなって」
「大丈夫です、もう慣れました。」
「ごめんね、また今度ご飯食べに来て」


あ〜と返答に困りながら、恵くんは悟へと視線を送る。私の横で大きなバツを作る悟は本当に大人げない。また二人の時間が減るとか思ってるんだろうな。これからずっと一緒に居るのに、結婚したのに、いつまでも恋人気分なんだから。


「なぁなぁ伏黒、この人だれ?」
「なまえさん、五条先生の奥さん」
「え、先生結婚してたの?!」
「初めまして、虎杖くんだよね。噂はよく聞いてます」
「あ、握手はダメだよ。悠仁でもだめ」
「悟くん!」
「だから、私はこの人でいいのかって言ったじゃないですか」
「七海そんなこと言ってたの?ひどーい」
「全然ひどくないでしょう。同期を心配するのは当然のことです」


七海さんの言いたいことは痛いほど分かってる。今だっていつの間にか後ろから抱き着かれてるし。生徒たちの前なのに、これはオッケーなことなのかな。そう思って伏黒くんに視線を送るけど、呆れたようにため息を吐かれただけだった。虎杖くんは、出した手をどうしたらいいのか困ってるし。本当に悟は先生やっていけているのか心配になる。


「悟、これから夜蛾先生と待ち合わせじゃないの?」
「ん〜でももう少しこうしてたい」
「伊地知くんが困るよ?」
「いいのいいの、伊地知は」
「よくないです。私が連れていきましょう」


有無を言わせぬ七海さんにズルズルと悟は引きずられていく。後輩に引っ張られながら、ちゅ、と投げキスしてくるところが悟らしい。私もひらひらと手を振って悟を見送った。


「恵くん、あの人いつも大丈夫?」
「なまえさんの前だと三割増しでダメになってますけど、いつもはギリ大丈夫です」
「そうかぁ?五条先生はいつもかっこいいけどな」
「虎杖くんがそう言ってくれてうれしいよ。今度恵くんと一緒にご飯食べに来てね」
「それは本当に遠慮します。まだ死にたくないんで」


恵くんが拒絶の言葉を口にする。死にたくないってなんのこと?って聞いてももう教えてくれなかった。今度、こっそり悟が先生しているところを覗きに行ってみよう。「いつもかっこいい」と「ギリ大丈夫」のどっちなのかを確認するために、ね。


リクエストは、五条先生と夫婦設定でみんなが居る前でもいちゃつく話でした。
リクエストありがとうございました!