優しい地獄へようこそ


「なまえ〜ご飯行こう〜」
「馴れ馴れしく呼ばないでください」
「え〜親戚なのに冷たくない?」


五条悟が馴れ馴れしいのはいつものことだ。ただ、それはわたしに対してだけではなく、他の一年であっても二年であっても同じなことには救われている。しつこいけど、後には引きずらないし、強制したりしないところはすごいなと感心さえする。


「ねぇねぇ行こうよ〜」
「…宿儺も一緒なら行く」
「ええ〜〜〜」


前言撤回。感心するは言いすぎた。「宿儺」の名前を出した途端、あからさまに怪訝な表情をした。分かりやすいな。これで話は終わったと、その場を後にしようとしたところへちょうど悠仁が現れた。悠仁を身代わりにして逃げればいいや。そう思っていたのに。


「おい、小娘、今俺の名前を呼んだだろう?」
「え、宿儺?」
「なに出てきちゃってんの?」
「呼ばれたからに決まっているだろう?」


よくよく見れば、黒い爪に顔に浮かんだ紋様。そこに居たのは、悠仁ではなく宿儺だった。こうして全面に出てきてくれるのは久しぶりだったから嬉しくて抱き着いてしまう。舌打ちが聞こえて来たけど気にしない。あぁ、宿儺だ。宿儺だ。嬉しい。
わたしが一人浮かれていると、ガン!と大きな音がした。アイマスクを外した五条悟が宿儺を攻撃して、宿儺によって軌道を変えられたそれが近くにあった大きな岩に当たった音だった。


「なまえから離れてよ」
「ん?なんだ貴様も小娘が大事なのか」
「宿儺に触れて欲しくないだけだよ」
「小娘から寄ってきたというのに理不尽だな」
「おじいちゃんと小娘じゃ釣り合わないでしょ?」
「そうでもないぞ」


攻撃こそ飛び交わないものの、口撃が飛び交う。間に挟まれたわたしはもちろん宿儺の味方だけど、口を挟む隙を二人とも与えてはくれない。これが特級同士の戦い方なのか、となんだか他人事のように見守っていた。もしかしてこれは「わたしのことで喧嘩しないで!」やるべきなのかなってちょっと考えたけど、五条悟がアイマスク外してて本気モード入ってたから怒られそうでやめた。


「おじいちゃんは寝てろって言ってんの」
「小娘が俺から離れんのだから仕方ないだろう」
「なまえ、こっち来なさい」
「いや、行くわけないし」
「来ないともう口きかないよ!恵が!」
「なんでそこで恵が出てくるの?」
「くだらんな」


五条悟がわたしを呼び寄せた瞬間、わたしの腰に宿儺が手を回した。行かせたくないんだろうな、って思った。大丈夫だよ、宿儺が居るのに、宿儺から離れるわけないじゃない。それにしても、女の扱い慣れてるな。ずるい。


「ご飯一緒にいってあげないよ?」
「小娘は俺が食っておくから問題ない」
「なまえ、それ罠!罠だからね。注文の多い料理店的なアレだからね」
「ちょっともう何言ってるのかわからないよ、五条悟」


相手にするのを疲れてきたところで、宿儺が「もういいだろう、行くか」と五条悟に背を向けた。自分より幾分か高いその横顔を眺められる幸せを噛みしめながら、わたしも宿儺についていく。後ろで五条悟がキャンキャン吠えててうるさいな、と思っていたら、「小娘、こっちを見ろ」と言われた。見上げると顎に手を添えられて、唇が重なった。「俺を楽しませた褒美だ」と言って宿儺は消えた。わたしに消えない感情を残して。


リクエストは、TABOO設定で五条先生と宿儺でした。
リクエストありがとうございました!