七転八起は意外と難しい


今日でなまえに会うのは6回目。
会えば穏やかな時間が流れるのに、一緒に居ない時間はひどく寂しい。自分はこんなに執着する人間だったなんて知らなかった。誰も教えてくれなかった。独占欲も執着心も人を好きになることも全部。

駅で待ち合わせをして、他愛ない会話をしながら東京タワーへ向かう。自分が無力で小さな人間に思えてしまって、そうじゃないと高いところから街を見下ろして確認したかったんだと思う。


「東京タワー来たの初めてだよ〜。悟は?」
「俺は小学校の時、社会科見学で来たことある」
「今、スカイツリーだっけ?建設してるから、そっちの方が人気になっちゃうのかな?」
「…うん」
「…悟?大丈夫?」

なまえと話をしていても、どこか上の空になる自分がいた。目を見て話しても、なまえの隣にいるのが自分で合っても、目の奥にこびりついてこの前の光景が消えてくれない。なまえはどんな気持ちで俺と会ってくれているんだろう。俺のことどう思ってるんだろうか。
ただ仕事として義務感で付き合ってくれてるのか。それともまた別の感情があるのか…。そんなことを考えていたら胸の中がざわめいた。……あぁもう嫌だ。なんなんだこれ。何考えてんだよ。自分らしくない感情に戸惑いしか生まれない。いつから自分はこうなってしまったんだろう。

どうしていいかわからない。
ふと見上げたなまえは心配そうな顔をしていた。その表情にもドキッとする。やめろよ。そんな顔すんなってば。お前さ、他の男の前でも同じ顔するんだろ?


「ねぇ、ほんと、大丈夫?」
「平気。ほら上行くぞ」

何でもないフリをしてエレベーターの前に並んだ。
エレベーターが到着して、さぁ乗り込もうってなった時、なまえが俺の服の裾をツンと引っ張った。なんだ?と思って振り返れば、少し不安そうな顔をしたなまえが居て、それすらやっぱり可愛いと思ってしまって。心臓がギュッとなった気がした。
「何?」って聞き返せば、「あのね、」と控えめに口を開いた後、耳元に唇を寄せてきた。そして小さな声で囁くように言った。


――――エレベーター苦手なの。


だから乗る前に手繋いで欲しいんだけど……だめかな? それは反則だろ。ずるいじゃん。今まで散々余裕ぶってきたクセにいきなりそういう事言うとか卑怯すぎだって。つか、なんでこんな時に言ってくるわけ?バカじゃねぇの? 頭の中で色々考えながらも身体は素直になまえに手を差し出していた。ぎゅ、と握って握り返された手のひら。傍から見たら完全に恋人同士に見えるだろうに。現実はそんなに甘くはいかない。

エレベーターに乗り込むと、ドアが閉まり、エレベーターは上に向かって動き出す。動き始めてすぐに、握った手に力を込めるなまえ。どうした?と屈めば「耳がきーんってする」って言うから、なまえの手は俺の身体に抱き着かせて、俺の手はなまえの両耳を覆う。確か、飛行機乗るときこうしたらいいって硝子が言ってたような気がしたから。なまえ はちょっと驚いたみたいだけど、そのまま俺にしがみついてきて。それがまた可愛くて。こんなんでドキドキするとかマジでガキ過ぎるけど仕方ないじゃないか。好きな女が自分の腕の中にいるんだから。

もうすぐ、展望デッキに着くだろう。この距離もあと少し。そう思ったらなまえの耳が塞がっているのをいいことに、なまえの耳に唇を寄せて「好きだ」と告げていた。何も聞こえていないなまえは不思議そうに「なに?聞こえない」と言っていたけど、聞こえなくていいんだ。これは俺の独り言なんだから。なまえには届かなくていい。今はまだ。