恋は雨上がりのように @


「グリンピースいらね」

高専の食堂、お昼ご飯のオムライスの中から出てくるグリンピースを私の皿に移しながら同級生の五条悟は悪態をついた。私の隣に座って一緒に食事を取っていた後輩の七海建人は不快を表情に浮かべ、私の皿に入り込んだグリンピースを悟の皿へと黙々と戻す。


「だからグリンピースいらねぇって言ってんの」
「なまえさんも要らないですよ」
「なまえ何も言ってねぇだろ」
「そんなの言われなくてもわかります」
「はぁ?お前なまえのなんなの?なまえの何知ってんの?」
「彼氏ですが」

七海の突然の彼氏宣言に私の口は能天気に弧を描く。七海と付き合い始めて一か月。お互いに忙しくて、デートらしいデートもなく、一緒に居られるのは昼のこの時間くらい。それでもこうして「彼氏」であることを実感させられて嬉しくないわけがない。


「うっざ」
「なら他の場所で食べられては?」
「うっせ〜、七海に言われなくてもなまえの変な顔見てたら食欲なくなったしもう飯どうでもいいわ」


まだ三分の二ほどしか食べられていないオムライスの乗ったトレイを持って悟が立ち上がる。「私そんなに変な顔してた?」と両頬を抑えて、七海の方を向いて確認してもらう。「いえ、いつも通り可愛いですよ?」とぽん、と私の頭を七海が撫でた。


「ただ、」
「ただ?」
「そういう顔は私の前でだけにして欲しいですね」

髪を撫でていた手をそのまま下にずらして、私の毛先を弄ぶ七海。そういう顔ってどんな顔?って分からなくて、首を傾けてみる。私の気持ちが伝わったのか、「そういう顔です」と言って私の首をぐいっと動かして前を向かされた。


「昼食を食べる時間がなくなりますよ」
「あ!そうだった!」
「午後からは任務ですか?」
「そう!悟と任務」


はぁ、と額を抑えて七海は深いため息を吐いた。「どうしたの?」と問いかければ、「またあの人かと思っただけですよ」と七海は諦めたような顔をした。私と悟が一緒に居るのが嫌なんだろうなというのは鈍い私にでも分かった。ただそれが分かっても同級生は4人しかいないし、距離を取るわけにもいかない。複雑な考えが頭を巡って、またご飯を食べる手が止まってしまう。


「私の不機嫌を気にしてくれるのなら、五条さんより多い時間私と過ごしてください」
「それは、全然!私だって一緒に居たいし!」
「その言葉だけで安心して待っていられます」

ふ、と表情を緩めた七海が穏やかにほほ笑んだ。眉間に皺が寄っていることの多い七海だから、ぎゅうって心臓が掴まれたような気持ちになった。返ってきたらいっぱい七海に「大好き」って言って、またこの顔が見たいな。余計なこと考えてる暇があったら、七海のことだけ考えていたい。そう思って、残りの食事を胃の中に流し込んだ。