はちみつより甘いキスの続きを


「なまえ…」
「ん、」
「まだだ、まだ足りない…」
「っふ、…っン」

もうどれくらいキスしてるのか分からないくらいの時間が流れて、だらしなく口の端から零れる涎を伏黒くんの舌が舐めとる。これで終わりかなと思うのに、また頭の後ろを押さえつけられ半ば強制的に唇が重なった。


「ふ…ぐろく…」
「ダメだ、逃げるな。なまえ」
「だって、」
「まだだ。もっと、」


そう言って伏黒くんは私のうなじを撫でながら、キスを続ける。
キスをするとエンドルフィンが分泌されて、鎮痛効果があるから、と言われて始めたキスだった。そもそも任務で負った傷は、硝子さんが反転術式で治してくれたのでもうとっくに痛みはない。それでも心配だから、と始まったキス。だから、伏黒くんが満足されるまでこのキスは続く。


「なまえ、」
「ふしぐろく…」
「ダメだ、すげぇ気持ちいい」
「ん、でも、…くるし…ッ」


トントン、と伏黒くんの胸元をぐーで叩く。けど、その手は伏黒くんの手に捕まってしまう。こんなの脳内麻薬どころじゃない。頭の中が伏黒くんでいっぱいで、伏黒くんが許してくれなきゃ呼吸すらままならない。本来の目的なんかもうどうでもよくて、ただただこの幸せな時間が続けばいいと願うのに、一方で早く解放して欲しいって思いもあって。


「キスだけで…ッん、おわり?」
「キスしかしねぇ」
「ん、ッふ、どうして?」
「なまえ怪我してんだろ」
「硝子さんが治してくれたよ?」
「でもダメだ」


いつまでも止まらないキスに伏黒くんの両頬を両手で掴んだ。ようやく止まってくれた伏黒くんは、首を傾けて不服そうな顔をした。その顔があまりにも可愛くて、もう少しならいいかなって思ってしまった。でもそれを許してしまったら元の木阿弥。鬼の心で「もう終わり」と言葉を口にした。


「俺とキスしたくねぇ?」
「そうじゃないよ」
「ならなんで?」
「だって、そんなにキスされたらしたくなっちゃう」
「なにを?」
「えっち…」
「あ、そうか」


やっと私の気持ちが伝わった。そう思ったのに、伏黒くんは自分の頬に添えた私の手を取ってその手のひらに唇を寄せた。「気づかなくて悪い」と言って、今度は指先を口に含む。私の人差し指は伏黒くんの口の中で弄ばれる。くすぐったくて、気持ちいい。


「ちょっと、伏黒くん」
「なまえに無理がないようにがんばる」

どうやら伏黒くんは私の抵抗を間違った方向で解釈してしまったらしい。弄ばれていた指は、人差し指、薬指に変わっていく。ねっとりとした舌に絡めとられ、私の思考はまた伏黒くんに支配される。もうどうしたって抗えない。

その日、私は伏黒くんに過去一優しく抱かれた。