記録---2018年6月 宮城県仙台市 除霊依頼者宅


「遠いところ、わざわざ来てもらってありがとうね。助かったわ。」

「いえ!お役に立てて良かったです。また何かありましたら、ご連絡ください。」

「ありがとう。気をつけて帰ってね。」

「はい。失礼します。」


【陰陽師】

古来より陰陽道に基づいた呪術や占術を使って、相談者のために働く人のことを言う。

私の家は代々その家系で、例に漏れず私も陰陽師としての力を得て生まれてきた。

普通の高校に通う選択肢もあったんだけど、ある日"とある人物"に出会い、"とある事情"を聞き、呪術教育機関である呪術高等専門学校に通うことになった。

そこを拠点にして、今日みたいな除霊関係の任務を引き受けながら日夜呪術の勉強をしてるってわけ。


陰陽師が呪術高専に通うのは珍しいみたいで、実績としては私で2人目らしい。

これだけを見ても、学校の偉い人達が呪術師以外の入学をあまり良く思っていないことが分かる。

下手こいたら、あっという間に退学させられるなんて噂を聞いたこともあるぐらいだ。

同じ呪いを祓う者同士、仲良くしてくれたらって思うんだけどね。

でもまぁそこは、私を高専に入れてくれた"とある人物"が頑張ってくれている…はず。


と、不意にかかってくる1本の電話。

携帯のディスプレイを見れば、今ちょうど話題に出た"とある人物"からだった。


「はい、木下でーす。」

『あ、スズお疲れ〜!任務終わった〜?』

「今さっき無事に終わりました!」

『バッチリ?』

「バッチリ!ってか先生、タイミング良すぎて気持ち悪いんですけど。どっかで見てます?」

『気持ち悪いはないじゃ〜ん。見てなくても分かるよ。何年一緒にいると思ってんの。』

「アハハ!さすが先生、男前〜!」

『知ってる!』


任務終わりを見計らったかのようなナイスタイミングで電話をかけてきたのは、我らが担任・五条悟先生でした。

話を聞けば、どうやら私の帰りのことのようで…

同級生の伏黒恵が別任務で仙台市に行ってるから、合流して一緒に帰っておいで〜とのこと。

1人で帰るの寂しいと思ってたし、お土産一緒に選べるし最高じゃん!

ってことで、私は悟先生との電話を終えるとすぐに同級生の電話番号を押した。





第1話 両面宿儺





記録---同日 宮城県仙台市 杉沢第三高校

同級生の恵と正門前で待ち合わせをし、合流したのが10分程前。

学校に保管されている特級呪物を持ち帰る任務らしく、今はその詳細について恵と先生が電話で会話中です。


「百葉箱!?そんな所に特級呪物保管するとか馬鹿過ぎるでしょ。」

『アハハ!でもおかげで回収も楽でしょ。』

「ひえ〜怖っ!」


そう言いながら、私は恵の両手を空けるため携帯を預かり、彼の耳にそれをかざした。

目でお礼を言ってくれる恵に笑顔を向け、一緒に百葉箱の中を覗く…が。


「…ないですよ。」

『え?』

「百葉箱、空っぽです。」

『マジで?ウケるね!』

「ぶん殴りますよ…」

『それ回収するまで帰ってきちゃ駄目だから。』

「(今度マジで殴ろう。)」

『あ、恵。ちょっとスズに代わって。』

「はい。…先生が代わってくれって。」

「私?」


恵の耳に当てていた携帯をそのまま自分の耳に持っていく。

"代わりました"と伝えれば、相変わらずの呑気な声が聞こえてくる。


『スズどうする?一緒に帰ってくればって言ったけど、事情変わったし、恵置いて帰ってきてもいいよ〜』

「…いや、このまま私も残ります。呪物探すなら人手は多い方がいいだろうし、それに…1人で帰るの寂しいし!」

『そっか!じゃあ悪いけどよろしく頼むよ。除霊で疲れてるだろうから、今日はいいとこ泊まりなね。』

「ふふっ。はい!ありがとうございます!」


その後もう一回恵に戻すよう言われたので携帯を返してから、私は今日の宿泊先を探し始めた。

せっかくなら恵と同じ場所がいいな〜。待ち合わせとかも楽だし。

私がそんな感じでホテル検索をしている中、電話の方はやけに盛り上がっていて…!


『ってことだから、スズと一緒によろしく。必ず持ち帰ってね。』

「分かってます。」

『あ、それと…スズ部屋に連れ込んじゃ駄目だからね。』

「なっ…!そんなことしません…って、切れてる。」

「…大丈夫?」

「あ、あぁ。ってか悪ぃな、付き合わせて。」

「全然!その代わり、帰りのお土産選びガッツリ付き合ってよね!」

「! りょーかい。」


笑って私の頭をポンと叩いた恵と一緒に学校周りをもう一度チェックして、私たちはその場を後にした。

恵と同じホテルに部屋取れたし、明日はこの学校への潜入調査でバタバタするだろうし、早く帰って寝ないとね。



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