それから少しして、用事を終えた虎杖が2人の元へ戻ってきた。
自分の左隣に座った彼に、五条は静かに声をかける。
「亡くなったのは?」
「爺ちゃん。でも親みたいなもんかな。」
「そっか。すまないね、そんな時に。…で、どうするかは決まった?」
「…こういうさ、呪いの被害って結構あんの?」
「今回はかなり特殊なケースだけど、被害の規模だけで言ったらザラにあるかな。
呪いに遭遇して普通に死ねたら御の字。ぐちゃぐちゃにされても、死体が見つかればまだましってもんだ。
宿儺の捜索をするとなれば、凄惨な現場を見ることもあるだろうし、君がそうならないとは言ってあげられない。ま、好きな地獄を選んでよ。」
「…スズは?スズも、そういう酷い現場に行ったり、危ない目に遭ったりしてんの?」
「私は陰陽師だから、呪術師の人よりはそういう経験少ないけど…それでも、2・3日立ち直れないようなことはあったよ。」
スズの辛そうな笑顔を見て、虎杖は少し驚いたような顔を見せる。
自分と同い年の、しかも女の子がそんな経験をしていることに、また何かを考えこむような表情になる。
そして…
「宿儺が全部消えれば、呪いに殺される人も少しは減るかな。」
「! 勿論。ね?」
「はい。それは間違いなく。」
「あの指、まだある?」
「ん。」
「改めて見ると気色悪いなあ。」
「(さて2本目…1/10か…どうなる?)」
「(無事でいて…!)」
「…クッ、ククッ…おえっ!まっず。笑えてくるわ。」
穏やかな顔で待つ五条と、手を組み祈りながら待つスズの前で、虎杖は無事自我を保ったまま再度呪物取込に成功した。
肉体の耐性だけでなく、特級呪物相手に難なく自我を保てるその天性の力。
彼はまさに、千年生まれてこなかった逸材であった。
「どったの?」
「くっくっくっ。いや、なんでもない。」
「スズも笑ってるし…」
「ふふっ。悠仁が無事で良かったと思って!」
「"覚悟はできた"ってことでいいのかな?」
「…全然。なんで俺が死刑なんだって思ってるよ。でも呪いは放っとけねえ。本当面倒くせえ遺言だよ。
宿儺は全部喰ってやる。後は知らん。自分の死に様はもう決まってんだわ。」
「いいね。君みたいのは嫌いじゃない。楽しい地獄になりそうだ。今日中に荷物まとめておいで。」
「先生、夕方の新幹線でいいですか?」
「そうだね。よろしく。」
「はい。4枚取っておきます。」
「? どっかいくの?」
「東京。」
「伏黒!!元気そうじゃん!」
「包帯見てそう思うか?」
テキパキと新幹線のチケット準備に取り掛かるスズをボケーっと見つめる虎杖に返事をしたのは、頭に包帯を巻いた伏黒だった。
頬や口元にも手当ての痕跡があり、なかなかの重傷であったことが分かる。
「オマエはこれから、俺やスズと同じ呪術師の学校に転入するんだ。」
「ちなみに1年生は君で4人目。」
「少なっ!!」
虎杖と五条がそんなやり取りをしている中、スズは病院から戻ってきた同級生の元へ駆け寄る。
痛々しい包帯部分に手を触れながら声をかければ、伏黒はくすぐったそうに表情を緩めた。
「恵、大丈夫…?」
「ああ。まぁまだあちこち痛ぇけどな。それよりスズは?本当に病院行かなくて平気だったのか?」
「うん!呪力貰ったお陰で、回復の術式使えるようになったから。恵のケガも治してあげられれば良かったんだけど…ごめんね。」
「馬鹿。俺のことはいいんだよ。にしても相変わらずすげーな、その回復能力。」
陰陽師であるスズは、呪力操作で相談者の呪いや痛みを取り除くことができる。
故にその力を自分に対して使えば、それはそのまま回復術として機能するのだ。
おまけに彼女は他の陰陽師とは違う特異体質の持ち主であり、その効力はさらに強いものとなるのだが…
その話はまた改めて…ということで。
to be continued...
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