会話がひと段落したところで、3人は敷地内にある道場のような場所に到着した。

黒く重そうな扉を開ければ、中には可愛いぬいぐるみに囲まれた、大変強面の屈強な男が鎮座しているのだった。

そしてその手は、ぬいぐるみを作るため現在進行形で動き続けている。


「遅いぞ、悟。」

「!」

「8分遅刻だ。責める程でもない遅刻をする癖、直せと言ったハズだぞ。」

「(オジサンがカワイイを作っている!!)」

「責める程じゃないなら責めないでくださいよ。どーせ人形作ってるんだからいいでしょ8分位。」

「全く…ん?スズもいるのか。」

「ご無沙汰してます、夜蛾学長!」

「あぁ。元気そうで何よりだ。だが…オマエ達2人は本当にいつも一緒にいるな。」

「もう妹みたいなものなんでね。一緒にいないと落ち着かないんですよ。」

「スズ、嫌だったらすぐ言ってこい。どうにかするからな。」

「ふふっ。はい!ありがとうございます!」


ジロッと睨んでくる五条の視線を避けながら、スズは大人しくするため1歩下がる。

そして代わりに前に出た新入生へと、話題は移っていく…


「……その子が?」

「虎杖悠仁です!!好みのタイプはジェニファー・ローレンス!よろしくおなしゃす!!」

「何しに来た。」

「…面談。」

「呪術高専にだ。」

「呪術を習いに…?」

「その先の話だ。呪いを学び、呪いを祓う術を身に付け、その先に何を求める。」

「何っていうか…宿儺の指回収するんすよ。放っとくと危ないんで。」

「何故?」


夜蛾と虎杖がそんな問答を始めると同時に、五条とスズはササッと部屋の端の方へ寄る。

ここからは新入生に対する毎度お馴染みのやり取りが始まるため、外野は静かに待つしかないのだ。

虎杖の受け答えを心配そうに見守っているスズを、柱に寄りかかりながら立っている五条は静かに見つめていた。

そして低く穏やかな声で名前を呼べば、スズは返事をしながら隣へ駆け寄ってくる。


「スズ。」

「! はい。」

「…さっき俺と宿儺が戦ったらどっちが勝つかって話が出たとき、不安そうな顔してたろ?」

「えっ!そ、そう…ですかね。先生の気のせいじゃないですか?」

「へぇ〜俺に隠し事できると思ってるんだ〜スズは。」

「ううっ…」

「…俺が負けるかもって考えた?」

「ち、違います!そうじゃなくて…」

「じゃなくて?」

「…私先生のこと大好きだし、先生の強さも、間近で見てよく知ってます。

 それでもこれから先、相手が誰かは別として…そういうことが起こらないとは言い切れないんじゃないかって…思って。

 そしたら、先生がいない世界とかそういう変な妄想が膨らんで……不安になりました。」

「そういうことか。安心した。」

「へっ?」


間の抜けた声を出す教え子に、"何その変な声"とからかいながら笑う五条。

それからふと穏やかな顔に戻った彼は、ゆっくりと話し始めた。


「いやさ…実はスズは俺のことが嫌いで、俺の強さを疑ってるんじゃないかって思ったから。」

「それは100%ないです!」

「ふっ。うん、それは伝わった。…じゃあスズの不安を消す方法は1つだな。」

「?」

「俺が勝つところをもっと見せてやる。これから先も、俺が最強だって一番近くで教えてやる。」

「先生…!」

「それでももし、スズが想像したようなことが起こったら……そのときは、オマエが俺の背中守ってくれるんだろ?」

「! はい!!」


さっきまでの不安そうな顔と打って変わり、全開の笑顔で返事をするスズ。

そんな彼女の頭をポンポンと撫でると、五条もまた優しい笑顔を見せるのだった。



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