数分後、五条の腕の中でモゾモゾと動きを見せるスズ。

それに気づいた彼が少し腕を緩めれば、想い人はグッと顔を上げる。


「先生!」

「復活した?」

「はい、バッチリです!ありがとうございました…!」

「ん、いつもの顔に戻ったな。まぁ…俺としては、もっと抱きついてくれてていいんだけどね。」

「あんまり甘やかさないでください…!甘えちゃうか「いいよ。」

「え?」

「だってスズ、全然甘えてきてくんねーじゃん。俺もっと甘やかしたいんだけど。」

「ダメです!早く追いつかないと…先生が"俺達"って言えないでしょ。」

「(! あーヤバイ…やっぱめちゃくちゃ好き。マジでキスしちゃダメかな…)」


スズからの真っ直ぐな言葉に、五条はもう気持ちが抑えきれない。

自分の肩に両手を置き、顔を下に向けている師匠の姿に、スズはワケが分からず困惑気味だ。

オロオロしながら声をかけてくる彼女に、五条は少し顔を上げながら返事をする。


「先生、どうしたの?大丈夫…?」

「…大丈夫。ちょっとスズへの想いが溢れ過ぎただけだから。」

「えっ!?ちょ、何言ってるんですか…!」

「だって本当なんだもん。あ、そういえば…途中呪霊に襲われてただろ。あれ…」

「楽巌寺学長…ですよね?」

「うん。誰かから聞いた?」

「はい、棘先輩から少し。私思ってたよりだいぶ煙たがられてますね…」

「…悪かったな。せっかくの交流会なのに嫌な思いさせて。」

「! 先生は何も悪くないです!!むしろいつも守ってもらってますから!…私、先生がいてくれれば平気です。あのお爺ちゃんには負けません!」


力強くそう言ったスズは、いつもの明るい笑顔を向けた。

そんな彼女に目線を合わせるように顔を近づける五条。

そして突然近づいた距離に動揺するスズに、色っぽく笑いかけた。


「スズ〜…今の結構殺し文句なんだけど。」

「へ?」

「…俺も同じだよ?スズがいてくれれば、誰にも…何にも…絶対負けたりしない。」

「先生…!」

「ふっ。いつにも増して顔あけーな。」

「だ、誰のせいですか!」

「俺のせい?」

「そうです…!!」

「ごめんね〜イケメンで。じゃあその顔の赤さが引くまで、みんなの状況教えてもらおうかな。」

「うっ…らじゃ!」


赤い顔をからかわれながらも、スズは現状をテキパキと説明していく。

例の特級呪霊が突然現れたこと、その呪霊に伏黒達がやられたこと、そして…虎杖が"黒閃"を出したこと。

ちょうどその話題を話している時、下から当人の声が聞こえてくる。


「五条先生!?」

「! 本当だ。悠仁のレベルが格段に上がってるね。」

「はい!東堂先輩のお陰です。」

「そうか、確かに葵と悠仁は相性いいだろ。特級と殺り合ってるみたいだけど、これなら心配いらないね。」

「えっ、じゃあそっちには先生行かないんですか?」

「うん。それより優先すべきは…」


スズの問いかけに笑顔を見せると、五条はそう言いながら彼女を小脇に抱える。

それからビックリするスズを無視して、瞬時に場所を移動した。

彼が降り立ったのは、庭師のような姿をした坊主頭の男のところだった。


「オマエだな。」

「ひっ!誰、この人!?うわ、学長まで…!」

「ラック!!ラック!!」

「殺すな!!」

「コイツには色々と聞かないといけない。死なせちゃダメだよ。ほら、手当てして。」

「…!」

「あ、スズの力は使わせないから。今休憩中なんで。」


坊主頭の四肢を一瞬でグシャグシャにすると、五条は楽巌寺に対し軽い調子でそう言った。

何か言いたげな学長をサラッと無視して、2人は辺りの気配を探り始める。

最強と言われる五条と同じレベルで呪力探知ができるのは、呪術界でもそう多くない。

スズは、その中の1人だ。

話がしっかりかみ合う相棒に満足しながら、五条はスズと小声で会話をする。


「何かあちこちで気配消えてますね。」

「だね。逃げの算段はつけてるわけか。」

「あの特級呪霊はまだいるみたいですけど…」

「うん、アレも逃げが上手い。スズが逃げられたぐらいだからね。」

「うっ…そうでしたね。」

「ふっ。でも悠仁の所まで距離があるな。…仕方ない。」

「?」

「少し乱暴しようか。スズは俺の後ろにいて?」


スズの方を向き優しくそう言うと、五条は一転して表情を変える。

術式の順転と反転を同時に発生させると、それを合体させ"虚式・茈"を放った。



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