両校のトップが静かに会話をしている中で、当のスズ達はサヨナラ勝ちに向けて猛攻撃中だった。

まずは最初のバッター、5番の狗巻が俊足を生かして塁に出る。


「おおっ!間に合った!!」

「狗巻先輩、足速いんだよ。」

「棘先輩、ナイスー!!」

「すじこ。」

「真依!!三輪!!盗塁あるわよ!!」


歌姫の声に、狗巻は更に塁から離れ盗塁を匂わせる。

そんな様子を笑顔で見守っていたスズは、次が自分の打順ということに気づきバットと共に急いで打席に向かった。

ヘルメットをすっかり忘れた状態で…


「スズ、ヘルメット「僕が持ってくよ。」

「! 五条先生。…お願いします。」


伏黒がすぐに気づいて声をかけようとしたが、東京校ベンチで水分補給をしていた五条によってそれは見事に遮られた。

その有無を言わさない圧力に、伏黒は大人しく引き下がる。

ヘルメット片手に足取りも軽く自分の持ち場へ戻る五条は、まだ東堂が来ていないため1人打席で素振りをしているスズにそっと近づいた。


「スズ〜」

「あ、先生!」

「相手がいくらピッチングマシーンでも、ヘルメットはかぶろうな。」

「えっ!?あ、かぶってなかった!ありがとうございます!」


気合い十分なスズにすぽっとヘルメットをかぶせると、そのままポンポンと頭を撫でながら優しい笑顔を見せる五条。

前髪を直しながら照れ臭そうに笑う想い人の表情に、彼は思わず手が出そうになるのを必死に堪えるのだった。


「ガツンと打ってくるから見ててね!」

「うん。しっかり当ててこいよ。」

「らじゃ!…そういえば、先生のワイシャツ姿って何か新鮮ですね!」

「カッコいい?」

「言わなーい!」

「…あ、そっか。スズはもっとカッコいい俺を知ってるもんね。」

「?」

「オフの俺の方が好きなんでしょ?それとも服着てない時の方が好きなんだっけ?」

「なっ…!私そんなこと言ってないですよ!!」

「毎回俺の風呂覗きに来るんだから、言ってるようなもんでしょ。」

「違っ!あれはたまたまお風呂のタイミングが3日連続で被っちゃっただけで…!毎回は言い過ぎです!」

「そうだっけ〜?」


ワチャワチャしている2人を呆れたように見やりながら、キャッチャーマスクをつけた東堂が定位置に座る。

"早くしろ"と促され、スズは五条を睨みながら改めて打席に入り直した。

そして…!


「スズ、行けー!!」

「打たないとパフェ奢らせるわよー!!」

「あいよー!!」


仲間達の声援を受け、スズは見事なセンター前ヒットを打った。

二塁にいる狗巻と笑顔で手を振り合い、続いてベンチにもガッツポーズを見せる。


「棘先輩、やりましたよー!!」

「ツナツナ!」

「悠仁、でっかいの打ってよー!!」

「おう、任せろ!!」


スズの声に大きく返事をした虎杖は、力強いスイングでそれはそれは見事なホームランを打ってのけた。

親友のホームランを喜ぶ東堂を押しのけて狗巻がホームベースを踏み、続いてスズ、そして最後に虎杖が戻って来る。

3人でハイタッチをし、流れで五条とも喜びを分かち合う。

こうして30年度交流会 2日目の野球戦は、3−0で東京校の勝利となった。



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