高専の敷地内にある、とある建物の中。

内部は暗闇に包まれているが、一部だけスポットライトが当たったように明るくなっている。

そこに上層部の面々に囲まれた五条の姿があった。


「特級過呪怨霊・祈本里香、422秒の完全顕現。このような事態を防ぐために、乙骨を君に預けたのだ。申し開きの余地はないぞ、五条悟。」

「まぁ元々言い訳なんてするつもりないですし。」

「何をふざけている!!祈本里香があのまま暴走していれば、町1つ消えていたかもしれんのだぞ!!」

「そうなりゃ命懸けで止めましたよ。」

「では死傷者が多数出ていたらどうするつもりだ!!」

「そのためにスズを連れていってるんです。あのね、私らがあの呪いについて言えることは1つだけ。

 "出自不明わからない"…呪術師の家系でもない女児の呪いが、どうしてあそこまで莫大なものになったのか。

 理解できないモノを支配コントロールすることはできません。ま、トライ&エラーってね。暫く放っておいてくださいよ。」

「……乙骨の秘匿死刑は保留だということを忘れるな。」

「そうなれば、私が乙骨側につくことも忘れずに。」


そう言って冷たい目を上層部の方に向けながら、五条は建物を出て行こうとする。

が、出る直前…また別の人間から声がかかる。

その人物が話し始めたのは、五条が可愛がっている少女のことだった。





第2話 黒く黒く





「先程少し名前が出たが…君はまだあの陰陽師崩れの面倒を見ているのか?」

「…自分達が認めた人間以外を蔑称で呼ぶのはどうかと思いますけど。」

「随分と贔屓にしているようだな。」

「彼女の呪力操作と治癒能力は群を抜いてます。おまけに呪術師としての素質もある。…あなた方が認めてる陰陽師より、遥かに優秀ですよ。」


何か言いたげな上層部を完全に無視して、五条は今度こそ建物を出て行った。

歩きながらサングラスを取っていつもの包帯姿になり、墓地のような場所を出口へ向かって進む五条。

そんな彼の元へ、外で待たせていたはずのスズが駆け寄ってきた。


「ったく、野暮な年寄り共め。ああはなりたくないね。気をつけよ。」

「悟先生…!」

「お〜スズ〜どうした?…この辺は上の連中の目が届きやすいから、あんま1人でいると危ねーぞ。」

「! ごめんなさい…」

「ふっ。怒ってるわけじゃねーから、そんな凹むな。すぐに知りたいことがあったんだろ?」


分かりやすく落ち込んだスズの頭を撫でながら、五条は優しくそう言って顔を覗き込む。

彼女が知りたいことなどお見通しというような余裕のある笑みを向けられ、スズは気恥ずかしそうに言葉を返した。


「憂太先輩のこと…どうでしたか?」

「問題ないよ。分からないことだらけだから、俺に任せて放っておいてくれって言っといた。」

「さすがです!」

「当然でしょ。さっ、行くよ。」

「はい!」


自分自身も安全とは言えない立場にあるという自覚が、まだあまり身についていないスズ。

普通なら"自覚を持て"と怒るところだろう。

だが現代最強呪術師が面倒を見ている場合は違う。

自覚がなく危険が迫っても、自分がいるから大丈夫。だからスズはそのままでいいのだ。

純粋に周りを心配するそんな弟子の姿に、五条は穏やかな表情を見せるのだった。



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