さて、狗巻達を見送った名物兄妹はと言うと…
五条自らが運転する車で、丘の上に建つ洋風のお屋敷に向かっていた。
そこは随分前から人が住まなくなり、建物自体が朽ちていくのに合わせて人々からの恐れが増し、呪いの館と成り果てていた。
「今回も強い呪霊がいっぱいいるんですか?」
「いや、今回特級呪霊は1体だよ。代わりに3〜4級の呪霊が山ほどいるんだって〜」
「へぇ〜そういう案件にも先生が呼ばれるんですか?」
「ふふっ。今回この案件を引き受けたのはスズのためだよ。」
「…え?」
「3〜4級の呪霊が山ほどいるって言ったでしょ?その相手をスズにやってもらおうと思って。」
「えっ!?」
「だいぶいろいろできるようになってきたから、ここで実戦を通してガンガン鍛えようと思ってさ。」
全開の笑顔でそう話す師匠とは対照的に、弟子は一気に緊張な面持ちに…
この前やっと1人で呪霊を倒したばかりの彼女にとって、弱いとはいえ大量の呪霊を倒すのは結構な難題である。
どうやって倒そうかと考えを巡らすスズの姿を横目で見ながら、五条は楽しそうに運転を続けるのだった。
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洋館に到着し、帳を降ろすや否や、すぐさま大量の呪霊が襲いかかって来る。
五条は内部にいる特級の相手をするため、スズに外の呪霊達を任せてその場を後にした。
「じゃあスズ、こっち頼むな。」
「え、本当に行っちゃうんですか!?こんなにたくさんいるのに…!」
「この数を相手にできるぐらいには、俺はオマエのこと鍛えてるつもりだよ。」
「そんな…」
「ふっ。大丈夫、今のスズならできるから。なっ?」
"あ、式神はまだダメだからな〜"
スズに穏やかな笑顔を向けると、最後にそう言って五条は建物内へと入って行った。
式神の扱いはまだ不完全であるため、師匠からの使用許可は出ない。
となると、スズに残された道は弱い呪霊を跳ね返せる正の呪力と陰陽道由来の術式となる。
いろいろ不安はあるが、確かに現代最強呪術師からたくさんのことを教わってきているスズ。
1つ大きく息を吐き顔を上げると、さっきまでの不安そうな表情は消えていた。
そうしてスズは、こちらに向かって来る数百の呪霊と対峙するのだった。
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1時間後…
洋館の周りに広がる芝生に大の字になって倒れているスズの姿があった。
額には大量の汗が浮かび、息も荒い。
そんな彼女の元に、サクッと特級呪霊を倒した師匠が笑顔で戻って来た。
「全部祓った?」
「先生…!祓いましたよ〜」
「よくやったじゃん!だからオマエならできるって言っただろ?」
「うー…でも疲れた!」
「…じゃあ甘いものでも食べて帰ろっか。」
五条からの粋な提案に、スズの顔はパッと明るくなる。
だが体を起こそうとする気持ちとは裏腹に、彼女の体は一向に動かない。
あまりに大量の呪力を消費したため、体が言うことをきかないようだ。
「悟先生、動けません…!」
「甘いものの前に、まずは呪力回復しないとな。」
「すみません。」
「スズがこうなるのは想定の範囲内だよ。横にいるから、ちょっと寝ろ。」
「はい…」
師匠に言われた通り、そのまま素直に目を閉じるスズ。
そんな彼女のおでこに手を当てて呪力を送りながら、五条は穏やかな笑みを見せる。
期待以上の成長を遂げている教え子の姿は、師匠にとって何よりの喜びのようだ。
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