30分後、呪力が元に戻ったスズが目を覚ました。

ムクッと体を起こして最初に感じたのは、隣からする聞きなれた寝息だった。

そちらに目を向ければ、包帯を取り、頭の後ろで手を組んだ状態で眠る五条の姿が…

スズの呪力回復が順調なのを確認した彼は、自身の疲れも取るため横になったのだ。

屋内でも眠れないことがある五条が、外で目を閉じることなど奇跡に近い。

それが今できているのは、ひとえに隣にスズがいるからだろう。

と、穏やかに眠る師匠の顔に、スズはふと見入ってしまう。


「(改めて見ると、悟先生ってキレイな顔してるな〜まつ毛も長いし。羨ましい。)」

「…そんなに俺の顔カッコいい?」

「! 起きてるなら言ってくださいよ!!」

「だってあんまり熱心に見てるから…」

「?」

「キスでもしてくれんのかと思って。」


そう言って少し口角を上げた五条は、アワアワするスズを面白がりながら体を起こす。

グッと体を伸ばす彼に、スズはさっきの師匠の言葉に反論を始めた。


「そういうのは、好きな人とじゃないとしちゃダメなんですよ…!」

「ふ〜ん…じゃあスズは俺のこと嫌いなんだ〜ショック。」

「そうは言ってないじゃないですか!先生のことは大好きですけど、そういう好きじゃないし。先生もそうでしょ?」

「…そうだな。(あれ?俺、今少し迷った?)」

「それより先生!パフェ食べに行こ!!」


自分の気持ちがよく分からず、珍しく難しい顔をしている五条に気づかず、彼の手を引っ張って立たせるスズ。

包帯を巻き直しながら、前を行く教え子に目をやる五条は、相変わらず腑に落ちない顔をしていた。

彼が自分の気持ちに気づくのは、まだまだ先のことだ。


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車で街まで戻って来た2人は、早速喫茶店に入りパフェを注文した。

背が高い上に、目元に包帯を巻いている五条は、どこに行っても目立ちまくる。

当然この喫茶店でも、隠し切れないイケメンオーラを察知した女性店員から熱い眼差しを送られていた。


「…先生って、何でそんなに目立つんですか?」

「イケメンだから。」

「それだけハッキリ言われると、いっそ清々しいですね。」

「でしょ?だからそのイチゴちょうだい。」

「何でですか、嫌ですよ!…でも先生ってどんな人と結婚するんですかね?」

「んーどうだろ。しないんじゃない?」

「えっ!何で?」

「何でって言われてもね〜誰か1人に愛情を向けるイメージが湧かない。」

「そんな〜…後継ぎ問題は大丈夫なんですか?」

「アハハ!スズが気にすることじゃねーだろ。」

「そうですけど…御三家だし、いろいろ言われるんじゃ…」

「オマエは本当俺に対して優しいね。」

「そ、そんなことないですよ…!」

「ふっ。じゃあさ…スズが相手になってくれる?」

「えっ!?」

「はい、イチゴいただき〜」

「あーっ!!」


パフェを食べながら、そんな会話をして盛り上がっていた師匠と弟子。

と、不意に聞こえるバイブ音。

発信元はスズのポケットに入ったスマホだった。


「はい、木下です。伊地知さん、どうしたんですか?」

『任務中すみません。今少しいいですか?』

「もちろん!」

『ありがとうございます。可能であれば、今からこちらの現場に来ていただけないでしょうか?』

「え、そっちに?」

「…スズ、スピーカーにして。」

「あ、はい。…伊地知さん、今悟先生も一緒にいるのでスピーカーにします。」

『分かりました。実は…』


そうして伊地知が話した内容は、狗巻と乙骨が担当した案件で負傷したということだった。

だからスズに、こちらに来て治療をして欲しいと…!

スズと五条は二級術師である狗巻が簡単に片づけられる案件だと聞いていたし、万が一不測の事態が起きても、彼がいれば大丈夫だと思っていた。

それが一転、2人揃ってケガを負ったというのだから驚くのも無理はない。


『…ということなんです。可能でしょうか。』

「大丈夫です!すぐ行きます!」

「伊地知、僕も一緒に行くから現場そのままにしといて。」

『承知しました。お願いします。』


その後急いでパフェをお腹に入れると、2人はすぐさま伊地知がいる現場へと向かった。



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