「珍しいな。」
「憂太の勘が当たった。」
「(ん?あの人どっかで…)」
スズ達が視線を向けた先にいたのは、黒髪の袈裟姿の男とそれはそれは大きなペリカンのような鳥だった。
見た目は普通の人間と鳥だが、そこから感じるオーラは決して良いものとは言えなかった。
後輩であるスズを背後に庇い、真希達はそれぞれ臨戦態勢で待ち構える。
「関係者…じゃねぇよな。」
「見ない呪いだしな。」
「すじこ。」
「わーでっかい鳥。」
「憂太先輩、そこじゃないです…!」
「変わらないね、呪術高専は。」
袈裟姿の男は、そう言って退屈そうに辺りを見回した。
ペリカンの口から出て矢継ぎ早に文句や質問を口にする訪問者と、それに対して乙骨の名前を出しながら言い返す真希達。
そんな中でスズだけは、乙骨の後ろに隠れながら静かに袈裟姿の男を見つめていた。
"昔写真で見た人に似てる…?"
スズがそんなことを思っていた、次の瞬間…!
「はじめまして、乙骨君。私は夏油傑。」
「えっ、あっ、はじめまして。」
「そして後ろに隠れてるのが…スズちゃんだね?」
「は、はい…!」
「「「速い!!!」」」
「うんうん。噂通りの素敵な呪力だ。(そして…彼女にもよく似てる。悟が気に入るわけだ。)」
「本当にあの…夏油さん、なんですか?」
「おや、私のことを知ってくれてたのかな?嬉しいね。」
さっきまで自分達の遥か前方にいた人物が、一瞬にして乙骨とスズの前に移動し2人の手を握っていたのだ。
驚く真希達を他所に、夏油はお目当ての人物を前に楽しそうに話し出す。
"君達の力は素晴らしい"と。
「君達はとても素晴らしい力を持っているね。私はね、大いなる力は大いなる目的のために使うべきだと考える。」
「(悟先生の同級生だけど、この人があの事件を起こしたんだよね…気をつけなきゃ。)」
「今の世界に疑問はないかい?」
「「?」」
「一般社会の秩序を守るため、呪術師が暗躍する世界さ。
つまりね、強者が弱者に適応する矛盾が成立してしまっているんだ。なんって嘆かわしい!!」
「はぁ…」「??」
「万物の霊長が自ら進化の歩みを止めてるわけさ。ナンセンス!!
そろそろ人類も生存戦略を見直すべきだよ。だからね、君達にも手伝ってほしいわけ。」
「? 何をですか?」
「非術師を皆殺しにして、呪術師だけの世界を作るんだ。」
その言葉を聞いた途端、夏油から流れ出た邪悪なエネルギーを感じ取り、スズは肩に回っていた手から逃れるようにしゃがみ込む。
そしてクルッと向きを変えると、安心する呪力の元へと走った。
「先生…!」
「平気か?何もされてない?」
「は、はい!大丈夫です。」
「良かった。しばらく俺の傍から離れんなよ?」
「分かりました…!」
「…僕の生徒と弟子にイカれた思想を吹きこまないでもらおうか。」
「悟ー!!久しいねー!!」
「まずその子達から離れろ、傑。」
スズの無事を確認して少し笑みを見せた五条は、一転して真剣な表情を夏油へと向けた。
元同級生の久しぶりの再会とは思えない程ピリついた空気にスズは不安そうな顔で、前を行く師匠の後に続く。
「今年の1年は粒揃いと聞いたが、成程…君の受け持ちか。可愛がってるのはお弟子さんだけじゃなかったんだね。
特級被呪者、突然変異呪骸、呪言師の末裔に正負の呪力を持つ陰陽師、そして…禪院家の落ちこぼれ。」
「テメェ…!」
「発言には気をつけろ。君のような猿は、私の世界にはいらないんだから。」
蔑んだような目を真希へ向ける夏油の手を、乙骨はバシッと払いのけた。
自分の大切な同級生に対する発言を聞き、彼の中に穏やかではない感情が生まれる。
「ごめんなさい。夏油さんが言ってることはまだよく分かりません。けど…友達を侮辱する人の手伝いは、僕にはできない!!」
「すまない。君を不快にさせるつもりはなかった。スズちゃんも呪力が乱れているね。悪かった。」
「!」
「じゃあ一体、どういうつもりでここに来た。」
「宣戦布告さ。」
夏油と乙骨の間に割り込むように体を入れた五条は、かつての同級生へ静かに言葉を投げかける。
そんな彼へ、そして周りにいる高専関係者達へ向けて、夏油は大きな声を上げるのだった。
「お集まりの皆々様!!耳の穴かっぽじってよーく聞いて頂こう!!
来たる12月24日!!日没と同時に!!我々は百鬼夜行を行う!!場所は呪いの坩堝、東京・新宿!!呪術の聖地、京都!!
各地に千の呪いを放つ。下す命令は勿論…"鏖殺"だ。地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして止めにこい。思う存分、呪い合おうじゃないか。」
「クリスマスイブに…千の呪い…!」
あまりに突然で恐ろしい宣言に、スズは思わず五条の服を掴む。
夏油サイドが場違いな程のんきにこの後の予定を話している間に、五条は弟子の頭に優しく手を置く。
そしてさっさと場を離れようとする夏油に対し、またも厳しい声で言葉をかけた。
「このまま行かせるとでも?」
「やめとけよ。可愛い生徒と弟子が私の間合いだよ。」
「ひっ…!何、この呪いの数…!!」
「それでは皆さん戦場で。…スズちゃん、またね。君の力が見れるのを楽しみにしてるよ。」
ヒラヒラと手を振りながら笑顔を見せた夏油は、そう言って仲間達と一緒に去って行った。
この宣戦布告を受けて以降、夜蛾をはじめとする関係者達は話し合いの場を多く持った。
夏油のこれまでの活動から、2000という数の呪いはハッタリではなさそうだということ。
そしてあちこちに声をかけ、とにかく呪術師を集めること。
そんな話し合いをしているうちに、その日はあっという間にやってくる…
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