強大な2つの呪力がぶつかり合ってから少しした頃…

新宿に出ていた五条がようやく呪術高専に戻って来る。

こちらに来て最初に感じたのは、愛弟子の危機的状況だった。

4人の教え子達には動きがあり、呪力も感じられる。

だがスズは今いる場所から微動だにせず、呪力もほぼ空に近かった。

五条はすぐさま呪力を辿り、現場へと駆けつける。


「スズ!!」

「…」

「(だいぶ弱ってる。憂太と傑の呪力に当てられたか…)」

「……先生…?」

「ごめんな、来るの遅くなった。もう大丈夫だから、目閉じてろ。」

「はい…」


倒れていたスズを抱き起こすと、五条は自分の呪力を分けるため力を込める。

それから安全な場所へ彼女を移動させると、自分はかつての同級生の元へと向かうのだった。


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建物同士の間に生まれる暗い路地。

そこに右肩から下を失った夏油がいた。

壁に体を預けながら歩く彼の前に、昔を思い起こさせるような姿で五条が立っていた。


「! 遅かったじゃないか…悟。」

「…」

「君で詰むとはな。家族達は無事かい?」

「揃いも揃って逃げ果せたよ。京都の方もオマエの指示だろ。」

「まぁね。君と違って私は優しいんだ。あの2人…いや、愛弟子もか。私にやられる前提で、乙骨の起爆剤として送りこんだな。」

「そこは信用した。オマエの様な主義の人間は、若い術師を理由もなく殺さないと。」

「クックックッ…信用か。まだ私にそんなものを残していたのか。…コレ返しといてくれ。」


そう言って夏油は、乙骨の学生証を投げて渡す。

最初の小学校の案件から彼が関わっていたことに、五条は呆れたような表情を見せた。

そんな元同級生に、夏油はある人物のことを話し出す…


「君の愛弟子と少し話をしたよ。」

「…そうか。」

「彼女はいい子だね。真っ直ぐで、優しくて、何事に対しても一生懸命で…君の弟子とは思えないな。」

「どういう意味だよ。」

「ふっ。…スズはよくやっていたよ。ギリギリまで仲間の治療にあたっていたし…師匠である君のことも気にかけてた。」

「俺のこと?」

「あぁ。あとでちゃんと褒めてやれよ。」

「分かった……何か言い残すことはあるか。」

「…誰がなんと言おうと、非術師さるどもは嫌いだ。

 でも別に高専の連中まで憎かったわけじゃない。ただこの世界では…私は心の底から笑えなかった。」


静かな口調でそう言った夏油を、五条もまた静かな表情で見つめていた。

その視線に気づいたのか、彼は少し顔を上げて、再び言葉を紡ぐ。


「…気づけばいつも傍にいて、横で支えたり、背中を押してくれたり、時には手を引いてくれる。」

「?」

「一生の中で、そういう存在に出会えるのは幸せなことだ。それが君の前には2人現れた。羨ましいことにね。」

「…誰のこと言ってんだ?」

「! まだ気づいてないのか…相変わらず呪術以外のことは鈍いな。まぁいい…あ、そうだ。1つスズに伝言を頼めるかな。」

「アイツに悪影響が及ばない内容ならな。」

「"思ってるよ"…とだけ伝えてくれ。」

「は?何だそれ。」

「いいから。そう伝えてくれれば分かる。」

「……傑、-----」

「…はっ。最期くらい呪いの言葉を吐けよ。」


死の間際とは思えない優しい笑顔を浮かべた夏油は、そうして短い生涯を終えたのだった。



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