夏油の亡骸をその場に残し、五条はゆっくりと歩き出す。

下に向けた顔に表情はなく、足取りも重い。

だがそんな彼の元に、タッタッタッという足音を響かせて慣れ親しんだ呪力が近づいてきた。

名前を呼ばれれば、五条の顔に少し生気が戻ってくる。


「悟先生…!!」

「お〜スズ、目覚めたか。」

「はい。」

「…ん、呪力も大丈夫そうだな。」

「うん。先生は…大丈夫?」

「! うん、大丈夫だよ。…みんなのとこ行こっか。」

「はい…」


師匠の元気のなさを心配しながらも、スズは黙って彼の後に続く。

だが前を行く五条の歩みが突然止まる。

気づくのが遅れたスズは、そのまま背中にぶつかってしまった。


「おっと…!ごめんなさい、先生。」

「スズ…」

「ん?」

「…やっぱ大丈夫じゃないかも。」

「えっ…?」

「本当は、家帰るまで我慢しようと思ってたんだけどさ…」

「?」

「……今、甘えていい?」


その問いかけに対する返事を待たずに、五条は後ろを振り向きスズに抱きついた。

アワアワしながらも何とか大きな体を受け止めたスズは、師匠のいつもと違う雰囲気を察し、優しく背中をポンポンと叩く。

そうして吐き出された言葉は、今まで聞いたことがない程にツラそうな声でスズの耳に届いた。


「はぁー…しんど。」

「! …そうですね。でもこんなことは、今日が最初で最後です。」

「そうかな…」

「そうですよ。絶対そうに決まってます…!」

「…うん、そうだな。」

「先生。」

「ん?」

「今日…ちゃんと寝れそうですか?」

「! …どっちだと思う?」

「…寝れないと思います。」

「……今日スズの部屋行きたい。」

「はい。部屋掃除してお待ちしてます。」

「部屋汚ねーもんな。」

「失礼な!先生の部屋よりマシです。」

「それはない。俺の部屋は床見えてるから。」

「私の部屋だって見えてます!」

「ふっ。もう汚くても何でもいいからさ……今日ずっと傍にいて。」

「しょうがないな〜パフェ10杯ですよ?」

「デブ。」

「ちょっと!!」


スズとのそんなやり取りを通して、五条にいつもの笑顔と軽い口調が戻ってくる。

それからしばらく抱きついていた五条は、ふーっと長く息を吐くとパッと体を離した。

スズが見上げた先にあったのは、皆がよく知る"最強呪術師・五条悟"の姿だった。

"行くぞ"と一言声をかけて歩き出した彼の背中を、スズは元気よく追いかけた。


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師匠と弟子のコンビが向かうのは、1年生達が集まっているとある路地だ。

その場へ近づくにつれて少しずつ声が聞こえ始め、また同時に里香の状態にも変化が起きていた。

そして…


「え…里香ちゃん?」

「おめでとう。解呪達成だね。」

「「「誰?」」」

「グットルッキングガイ・五条悟先生ダヨ〜」

「あははっ!先生、目隠し取ると誰だか分かってもらえないんですね。」

「「スズ!」」「スズちゃん!」「こんぶ!」

「皆さん、ご無事で何よりです…!!」


五条の後ろからひょこっと顔を出したスズに、真希達は揃って笑顔を見せる。

それぞれが治療に対する礼を伝えると、スズは何とも嬉しそうな顔を見せた。

微笑ましい先輩後輩のやり取りがひと段落したタイミングで、五条は乙骨と里香の関係性について話し始める。


「以前、憂太が立てた仮説…面白いと思ってね、家系の調査を依頼した。

 里香の方は随分昔に終了してたけど、憂太の方はザルもいいとこだったからね。

 それで判明したんだけど…君、菅原道真の子孫だった。超遠縁だけど僕の親戚!!!」

「「「スガッ!!」」」

「え、誰?」

「日本三大怨霊の1人。」

「超大物呪術師だ。」「ツナ。」

「あれ、憂太先輩ピンと来てない?」

「憂太が正しかった。里香が君に呪いをかけたんじゃない。君が里香に呪いをかけたんだ。」


目の前で血だらけになっている里香が今にも死んでしまいそうで…

でもそんなの絶対に嫌で、死んで欲しくなくて…

それがすべて里香に対する呪いとなり、特級過呪怨霊にまで成ったというわけだ。

自分のせいで…と涙を流す乙骨に、里香は優しく言葉をかける。

"この6年が、生きてる時より幸せだったよ"…と。

こうして呪いが解けた里香は、空へと消えて行った。



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