一連の事件が無事に決着を迎え、高専にやっと穏やかな空気が流れる。

1年生4人はケガの治療のため、揃って家入の元へと向かうことになった。

スズもその後ろをくっついて行こうとしたのだが、不意に後ろから首元を引っ張られる。


「ぐえっ!」

「じゃあ皆、ちゃんと診てもらいなよ?僕とスズはちょっと用があるからここで。」

「へいへい。」「スズまたな〜」「明太子。」「スズちゃんもお大事にね!」

「あ、はい!」


五条とスズにそれぞれ言葉を返し、4人はその場を後にした。

そうして残されたスズは、自分を引き留めた張本人を振り返る。


「先生、用って何ですか?何かありましたっけ?」

「スズには大事な用があるじゃん。」

「え、あったっけ…」

「…この後の俺の面倒は誰が見んだよ。」

「あ。私…でしたよね。」

「うん。だから早く家帰ろ?…上手く笑えなくなってきた。」

「! …当然ですよ。ツラい時はツラい顔していいです。」

「やだ。スズの前でしかしねーし。」

「もう…そういうこと言ってると、おんぶして帰りますよ?」

「ふっ。バーカ、足つくわ。」

「いや、意外といけるかもしれないですよ!」

「ふーん…じゃあやって?」


楽しそうにそう言うと、五条はスズの背後に回りガバッと抱きつく。

全体重をかけてくる師匠の重さに必死に耐えながら、弟子は何とか前に進もうとしていた。

そんな一生懸命な姿を見つめている五条の顔は、とても自然に笑っていた。


「うおーっ!!」

「スズ〜全然進んでねーけど。」

「くそーっ!!先生のデブー!」

「どこのイケメン細マッチョ捕まえて言ってんだよ。」

「うーっ!」

「ふふっ。でもこのまんまじゃいつまで経っても家帰れねーから…」

「?」


足を止め、少しこちらを振り向いたスズに笑いかけると、五条は彼女の顔の前で突然両手をパンっと叩いた。

ビックリして思わず閉じていた目を開けると、そこは見慣れた五条家の門の前で…!

術式を使ったんだと気づくまでに、スズは少し時間がかかった。


「術式使うときは言ってくださいよ!」

「ビックリした?」

「しましたよ!!もう…!」

「…だって早くスズの部屋行きたかったから。」

「! 少し休みましょ。先生に今一番必要なのは休息です。」


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「スズ〜喉渇いた〜」

「はーい!」

「スズ〜甘いもの食べたい。」

「今持って行きます!」

「スズ〜テレビつけて〜」

「分かりました!」

「スズ〜」

「次は何ですか…!」

「…ちょっとこっち来て。」


スズの部屋に着くなりベッドに寝転がると、五条は一歩も動かずひたすら彼女に甘えていた。

だが最後のお願いだけは他のものと違い、低く落ち着いたトーンで発せられた。

呼ばれたスズがベッド脇に正座すれば、五条は寝ころんだまま腕を枕にした状態でゆっくりと話し始める。


「傑と少し話したんだって?」

「え、あ、いや…あれを話したと言っていいのか…」

「アイツ、スズのこと褒めてたよ。頑張ったんだってな。」

「へへっ。まぁ…!」

「よくやった。お疲れさん。」


照れくさそうにするスズの頭を、五条はそう言って優しく撫でた。

師匠に褒められ、スズの表情はさらに喜びでいっぱいになる。


「でね、その傑から伝言頼まれたの。」

「伝言?」

「うん。えーと、確か…"思ってるよ"だったかな。意味分かる?」

「"思ってるよ"……あっ!」

「分かった?」

「分かりました!私が一番聞きたかった言葉です。」

「…そんなに笑顔になるぐらい?」

「はい!」


五条が思わずそう指摘してしまうほど、スズの顔は満面の笑みだった。

自分だけが分かっていないことを面白くないと思いながら、五条はおもむろに体を起こす。

そしてベッドに腰掛けるような体勢になると、正座をしているスズを少し見下ろす形になった。


「傑がさ、スズは俺のことも気にかけてたって言ってたんだけど…そのことと関係ある?」

「! いや、あの、関係…ない、です!」

「ふ〜ん…オマエ、嘘つくの下手だな。」

「な、何ですか急に!」

「全部顔に出てる。」

「えっ!?」

「ふっ。まぁいいや…それもこれも全部まとめて……ありがとな。」


アタフタしてるスズをギュっと抱きしめると、五条は穏やかな声でそう言った。

"どういたしまして!"と返してくる弟子は、彼にとって何よりも頼れる存在だった。



"夏油さんは、もう悟先生のこと友達だと思ってないんですか?"

"思ってるよ。"



to be continued...



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