2人はまず高専の学生課へ…
一応学生課と銘打ってはいるものの、呪術高専の事務作業全般を請け負っている何とも忙しい課である。
そんなただでさえバタバタしている場所に、普段滅多に姿を見せない有名人・五条悟が来たものだから、事務員達は大騒ぎだ。
「やあ。ちょっといい?」
「あ、ご、五条さん…!」
「この子の入学手続きしたいんだけど。」
「わ、分かりました!すぐに!」
「よろしく〜」
「よろしくお願いします。…先生、何か皆さん忙しそうですけど大丈夫ですか?」
「ん〜大丈夫でしょ。やってくれるって言ったし。」
「それは先生が圧かけたからですよ。」
「かけてないし。巷じゃ優しくてイケメンだって評判なんだから。」
「聞いたことないですけど、その評判…って、いたたたっ!」
「何?」
「…何でもないです。」
受付のイスに座って頬杖をつきながら、スズの頬を抓る五条。
想定通りの反応を示す弟子に師匠はご満悦のようだ。
その様子を遠巻きに見ていた事務員達は、2人の楽しげなやり取りに驚きを隠せない。
世間一般には、"現代最強呪術師"として名が通っている五条。
彼の強さや上層部とのやり取り、そして破天荒な振る舞いなどから"怖い"・"厳しい"というイメージを持たれていることもしばしば。
それがどうだろう…今目の前にいる五条悟は、そのイメージとは真逆のような姿だった。
集中して書類を記入しているスズの横で暇そうにしている彼は、さっきから弟子にちょっかいばかり出している。
「スズ、まだ〜?」
「まだです。ってか今さっき書き始めたばっかりでしょ!」
「…その文字の大きさで枠に入る?」
「入りますよ!……ほら、入った!ちょっと静かにしてて下さい!」
「だって暇なんだもん。僕と会話しながら書いてよ。」
「嫌ですよ!絶対間違えるから。」
「…この後お昼行くじゃん?何食べる?」
「…何でもいいです。」
「えー決めてよー。中華?イタリアン?和食もいいよね。」
「…」
「それともガッツリ焼肉とか。フレンチは時間かかるからダメだね。」
「…」
「スズ〜どうする〜?ね〜」
「…あー!間違った!!もう!!」
「アハハ!そこに修正テープあるよ。」
終始楽しそうにしている五条の姿に、職員達の彼に対するイメージはガラッと変わった。
そして同時に、あの五条悟と何の物怖じもせず会話をするスズにも尊敬の念を抱いていた。
その後何とか書類を書き上げたスズは、ただ文字を書いていただけなのに尋常じゃない疲れようで…
「…できました。」
「おっ、見せてみ?……うん、修正テープだらけだけど内容は大丈夫だな。」
「誰のせいで、そんな汚い書類になったと思ってるんですか。」
「僕のせいではないよね。僕、喋ってただけだし。」
「喋ってたんじゃなくて、喋りかけてたんでしょ!私に!」
「はい、静かに〜じゃあこれよろしくね。」
「あ、は、はい!」
五条が差し出した書類を緊張気味に受け取った事務員は、去って行く2人の姿を呆然と見つめる。
邪魔してきたことをひたすら怒っているスズと、それを笑いながら軽く流している五条。
嵐のように現れ、嵐のように去って行った名物兄妹が、そう呼ばれる理由を改めて実感した事務員達なのだった。
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