年が明け、寒い1月・2月を過ごして迎えた3月。

花粉の飛散と共に気温も少しずつ上がり、気持ちの良い日が続いていた。

春の風に吹かれながら、のんびりと外でランチをしている人もいる中…

スズの部屋からは、さっきからガタガタと大きな音が聞こえてくる。





第6話 新入生





呪術高専への入学を機に、五条家を出て学生寮で暮らすことになるスズ。

当主からは"ここは第2の実家と思ってくれていいよ"と言われていることもあり、すぐに使わないものは置いていっているはずなのだが…

必要なものだけを箱詰めしているにも関わらず、段ボールは増えるばかりだった。

そんな部屋の掃除をしながら引っ越し準備を頑張っているスズの元へ、例の彼がやって来る。


「スズ〜飯食いに行こ〜」

「今ちょっと手が離せなくて…!先に食べてくださ〜い!」

「まだ終わんねーの?」

「はい。意外と荷物が多くて…あ、でも大丈「手伝ってやるよ。」

「え、いいです!やめて!…って、それは今箱詰めしたやつ!」


スズの叫びも虚しく、五条はキッチリと梱包されている段ボールをバリバリと開けて中身を出していく。

誰もが分かる通り、明らかにわざとである。

そう。3月に入ってからというもの、五条はスズの引っ越し準備を邪魔してばかりなのだ。

何かと理由をつけては外に連れ出したり、不意に部屋に来ては今のように中身をぶちまけてスズの作業を台無しにする。

よって彼女の準備は一向に進まないのだ。


「もー!!何で邪魔ばっかりするんですか!」

「邪魔してねーじゃん。手伝ってんの。」

「じゃあ今先生の目の前に散らばってるのは何ですか?」

「…」

「それはさっき私が詰め終わったばっかりの荷物です。」

「…」

「これを見て、誰が手伝ってるって思います?」


床に座り込み、不貞腐れたように顔を逸らす師匠に、スズは珍しくお説教モード。

どっちが正しいかは火を見るよりも明らかなので、さっきから五条はだんまりを決め込んでいる。

腕を組んだまま自分を見下ろしているスズの方にチラッと視線を向けてから、悪ガキは小さな声で話し出した。


「……とに、…のかよ。」

「ん?何ですか?」

「…本当に出てくのかよ。」

「えっ…」

「別にこっから通えばいいじゃん。」

「! 先生もしかして…寂しがってくれてるんですか?」

「……ちげーし。」

「ふふっ。呼んでくれれば、いつでもご飯お供します!」

「…任務の時は?」

「連絡ください!」

「…遊びたい時も?」

「はい!お待ちしてます。」

「じゃあ…寝れない時はそっち行っていい?」

「え、私がこっち来ますよ。横で子守歌でも歌いますね。」

「ふっ。歌はいらねー。」


しゃがんで目線を合わせたスズが笑顔を向けると、五条の表情もようやく緩んできた。

"散らかして悪かった"と小さな声で呟く師匠を、弟子は大らかな心で許すのだった。


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反省した五条の協力もあり、スズの荷造りは月末にやっと完了した。

明日から入寮という何ともギリギリなところではあるが…

そんなこんなで、今日が五条家で過ごす最後の夜。

いつものようにワイワイと2人で夕飯を食べ終えると、スズがおもむろに可愛らしい袋を五条へ手渡した。


「ん?何これ?」

「今までお世話になったお礼です!ささやかですが…!」

「開けていい?」

「もちろん!」


五条が袋を開けると、中には何やら黒い布と白い勾玉が入っていた。

ニコニコしているスズに中身を問いかければ、明るい声で答えが返って来る。


「この黒いの何?ヘアバンド?」

「それは目隠しです!先生いつも包帯巻いたり取ったり大変そうだから。それなら領域展開の時はスッと下にズラせばいいかなって。」

「確かに巻くの面倒なんだよな〜じゃあこっちの白いのは?」

「あ、それは私の陰陽師の力を込めた石です。先生には必要ないかもしれないけど…お守り代わりってことで!」

「そっか…ありがとな。大事にする。」

「押忍!こちらこそ、今までありがとうございました!これからもよろしくお願いします。」

「うん。よろしく。」


そう言って穏やかな笑みを見せた五条は、目の前に座るスズの頭をポンポンと優しく撫でた。



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