スズ達が入学してから、早いもので1ヶ月が過ぎようとしていた。

今日も朝から呪術実習ということで、スズと伏黒は揃って準備体操の真っ最中だ。

だがいつまで経っても、教える側の人間がやって来ない。


"寝坊か?"

"もしかして忘れてる?"


だんだんと不安になってきた2人がそんな会話をしていると…

集合時間から遅れること30分。

ようやく五条悟先生が到着した。





第7話 前日





「おはよ〜お待たせ。」

「お待たせじゃないですよ。遅れるなら連絡ぐらい下さい。」

「ごめんごめん。」

「悟先生、寝坊?」

「ううん、学長に呼び出されてた。ちょっと緊急の任務入っちゃってさ。」

「「えっ。」」

「だから今日の実習はなし!ごめんね。」


両手を合わせて可愛くそう言った五条に、生徒達はそれぞれ残念そうな表情を見せる。

だがこのまま今日という日を無駄に終わらせる彼ではない。

先生らしく、代わりの訓練をちゃんと考えていた。


「でも安心して。ちゃんと2人の練習メニュー考えてきたから。」

「さすが先生!」

「でしょ?てことでスズは式神の練習〜!」

「うげ。」

「文句言わない。で、恵はそのコーチ!」

「へ?俺がスズの練習見るってことですか?」

「そういうこと!人に教えることは、自分のためにもなるんだよ?じゃ、僕行くから。あとよろしく〜」


軽い口調でそう言うと、五条はあっという間に姿を消した。

何かを言う間もなく取り残されたスズと伏黒は、少し顔を見合わせた後、ゆっくりと練習場へと向かうのだった。


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高専敷地内にあるだだっ広い運動場にて、スズの式神練習が始まった。

五条が用意した低級呪霊を相手に、先程から式神を使って頑張っている彼女だが…


"あ、白虎!そっちじゃないよ!"

"どこ行くの、クグノチー!"


どうにもこうにもスズの言うことを聞かない式神達。

だが式神歴の長い伏黒が見た感じ、どうも自分勝手に動いているのではなさそうだった。

休憩のために一旦自分の元へ戻って来たスズに対し、伏黒は静かに話し出す。


「お疲れさん。」

「ありがと。疲れた〜…見たでしょ?なかなか言うこと聞いてくれないんだ。」

「そうか?」

「え?」

「俺には、言うこと聞いてないんじゃなくて、スズを守ろうとしてるように見えたけど。」

「守る?」

「うん。あの式神達は、元々オマエの親についてたんだろ?だとしたら、経験値は向こうの方がよっぽど上だ。」

「それは…確かに。」

「きっとスズの指示じゃ、オマエ自身を守れないと思ったんだろ。主を守るために動いた結果が、言うことを聞いてないように見えてるだけだと思う。」

「そういうことか…全然気づかなかった。何か式神達に悪いことしちゃったな。」

「でももう気づいただろ?今度は上手くできる。」

「恵…!ありがと!やってみる。」


少し笑みを見せた伏黒に背中を押され、スズはもう一度式神を呼び出して呪霊と対峙する。

今までの一方的に指示する戦い方ではなく、式神の声を聞きながら一緒に戦うスタイルにすると、成果はすぐに表れた。

スズの注意が疎かになっている部分を式神がフォローし、逆に式神が危ない場面になった時はスズが彼らを守る。

その息の合った動きに、伏黒も思わず笑顔になった。

そして最後の呪霊を倒し終わったスズは式神を解除し、嬉しそうに同期の方を振り返った。


「恵、やったよ!」

「あ、バカ!よそ見すんな!!」

「へ?…うわっ!!」

「"鵺"!」


隠れていた呪霊がスズの死角から飛び出し、勢いよく彼女に向かって来た。

式神練習で呪力を使い果たしていたスズは、咄嗟に対抗できずその場にしゃがみ込んでしまう。

伏黒が即座に呼び出した"鵺"がスズの服を掴んで主の方へ放り投げ、その勢いで呪霊を倒した。

飛んできた同期を受け止めた伏黒は、まず彼女の状態を確認するのだった。


「スズ、ケガは?」

「大丈夫…」

「式神を解く時は、周りの呪力を確かめてからにしろ!!今みたいに隠れてる奴がいたらどうすんだよ!」

「…ごめんなさい。」

「ったく…」

「あ、あの恵…」

「ん?」

「助けてくれてありがとう。」

「…無事で良かったよ。」


ワシャワシャとスズの頭を撫でた伏黒は、そう言って穏やかな笑みを見せた。



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